総選挙で景気は維持されるが…

                       名古屋大学  客員教授

      経済学博士  

選挙は生き残りを賭けた戦争である。 どれほど高い理想を掲げても落選すれば、それを実現することは難しい。生き延びるためには相手を叩きのめし、誰にでも都合の良い約束をすることになる。福祉や介護を充実し、子育てを支援し、教育費を肩代わりするなどがその代表である。公共施設の拡充強化も要請に沿う必要がある。一方では減税など国民や企業の負担を少なくすることが主張される。これらの政策は人々が要望する景気を維持向上させるのに役立つ。ただし、これらの施策を実行するためには膨大な資金が必要である。財源に限りがあるために、多くの施策の中で必要なものを選択しなければならない。選別して除かれた部門からは非難の声が上がる。それを押さえる方法がない。しかし心配はいらない。

 

借金すれば当面の課題は解消できるからである。 分かっていても、簡単ではない。資金を借りれば、返さなければならない。その時の苦労を考えれば、安易に借金をすることはできない。返す当てがない資金は貸してもらえないのが普通である。ところが我が国では膨大な資金が余っていて、行き場を探している。そのうえ日本銀行が発行されている国債を大量に買い上げてくれる。需要と供給の関係で決まる国債の金利はゼロパーセント近くで推移している。国債はいくらでも発行できる。問題は国債残高が異常に膨れ上がっていることである。本来なら削減しなければならない国債を増発することは、許されないはずである。しかし、そのような声は無視されることになろう。目先の幸せだけが重視され、問題が先送りされる。

 

長期的には深刻な課題が待っている。国の借金が将来の国民にとって負担になるからである。選挙でそれを訴える候補者はいない。選挙の後では公約を守れと人々が言う。結果として当分の間、景気は安泰と見ても良いであろう。東京オリンピックに向かって皆が走り出す。しかし、あまりにも大きな借金を背負っての経済運営が息切れするのは当然である。借金を前提として安易に生きてきた国民にとって借金なしの生活は難しい。しかも借金を返済していくためには、従来よりも格段の勤勉さで働き、しかも生活水準を大きく落とさなければならない。それが将来的に避けられないとすれば、それに対する心構えと準備が必要である。目先の景気だけを気にして右往左往しているわけにはいかない。   (みずたに けんじ)

---時局コメンタリ‐第1639号への寄稿(2017.9.25)から---

 

inserted by FC2 system