名古屋大学
客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
2017.7.1
借金による豊かさへの誘惑
―――借金返済の将来負担は深刻―――
収入の範囲で使うのが原則である。したがって収入が豊かさを決めると思われている。しかし、より豊かになる方法がある。借金で資金を手に入れれば、それだけ余分に使うことができるからである。
もちろん借金には各種の目的がある。例えば緊急で必要な支出が生じることがある。個人では不測の災害や急病の時がその代表である。一時的に大金が必要な場合もある。入学金の支払いなどが考えられる。住宅の購入もある。
企業でも存亡を掛けた場合がある。支払資金の不足がその例である。自社の買収に対抗することも考えられる。将来のために積極的に投資するために大量の資金が必要なことも多い。
そのような事態を想定して、あらかじめ貯金をしておくのが普通である。その資金は多いほど望ましい。ところが、そのためには収入の内、使わずに貯め込まなければならない。その分だけ使わないのであるから目先の豊かさを犠牲にすることになる。
貯蓄の必要なことは分かっていても、現実には難しい。それは収入がなかなか増えないにもかかわらず、世間並みの生活をするために必要な支出が多く、節約できないからである。
企業も同様である。売り上げが伸びず、支出を賄いきれない。それでも他社並みに社員の給料も配当も支払わなければならない。内部留保が重要なことは分かっていても、簡単ではない。
資金不足を一挙に解決してくれるのが借金である。そのおかげで生き延びることができる。将来の布石も打てる。
ただし借金は返済しなければならない。金利も支払う必要がある。その分だけ収入より少なく支出しなければならない。その負担を考えると借金をすることに慎重にならざるを得ない。
ところが、このことが国の場合には当てはまらない。いろいろな理屈をこねて、借金を正当化し、将来の負担が何とかなるとされる。
我が国は目先の豊かさを目指して毎年膨大な借金を続けている。おかげで現在の経済水準は異常に高くなっている。しかし、その負担を将来にわたり国民が負わなければならない。
---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿(2017.7.1)から---