名古屋大学
客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
2017.5.1
困難な大型投資の決断
―――投資意欲の減退が衰退の原因と結果―――
天下の東芝が生き延びるために全力を挙げている。このような事態を招いた原因が取りざたされているが、その一つとして、巨大な投資の失敗がある。
どれほど繁栄を謳歌していても、現状に安住していては、やがては取り残される。将来のためには絶えず向上を目指さなければならない。そのためには新しい分野への挑戦が必要である。
得意部門を伸ばすことが最も安全である。飛躍を求めれば、違った分野への大規模な投資が必要になる。多くの場合、新分野に対する知識が乏しく、危険性が高い。
将来のための投資がどこまで許されるかは、体力次第である。投資が結実しない場合、その結果として、どのように収拾するかも考えなければならない。
安全性を重視すれば保守的にならざるを得ない。それを貴んでいるのがいわゆる老舗である。躍進する企業は果敢に挑戦している。それが世間でも称賛される。
投資が失敗しても、その他の部門が躍進を続けていれば、傷は深くならない。全体の経済が成長する場合には多くの部門で売り上げが伸び、収益も増加するため、打撃を補うことができる。
いわゆる高度経済成長期がそれに当たり、多くの企業が積極的に投資をしていた。それが全体の経済をより活発にして成長率を高めることに繋がった。
成長しない経済になって久しい。経済の水準は上昇することがなくなった。成長することを諦め、低下しなければ良いとの感覚が一般化しているように思われる。
これでは発展が望めない。積極的な投資活動が必要なことは分かっている。資金がないわけではない。国内に投資機会が乏しいと海外への投資を試みる向きもある。ところが世界的な経済成長率の低下で、将来性が難しくなってきている。
大規模な投資がますます困難になっていきそうである。経済社会の飛躍は当分の間、難しいと思われる。
---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2017.5.1)から---