財政再建は我々の責務 2017.3.11
---後の世代へ借金を残すな---
水 谷 研 治
(名古屋大学客員教授 経済学博士)
1 国の借金を増加させる余地は十分ではあるが・・・
デフレ脱却のために財政赤字を増大させようとする意見がある。
重大な緊急事態であれば大幅な赤字も必要になる。
個人でも企業でも死に直面すれば、そこから脱却しなければならない。国でもそのような事態が考えられる。その代表が戦争である。大地震などによる大規模な自然災害もある。大恐慌あるいはその兆候が顕著な場合も妥当するであろう。そのような場合には大量の借金をしても危機を乗り切ることが必要である。
危機を乗り切った後は大至急で借金を返済する必要がある。そして将来再び危機に面した時のために、いつでも借金ができるように準備しなければならない。
ところが我が国は目先の景気を良くするために財政赤字を利用してきた。景気をより良くするために長期間にわたり財政赤字を増加させてきている。一時的に赤字が縮小する時期がなかったわけはないが、国の借金が減少することはなかった。それが半世紀も続いた結果として、国の借金は莫大な金額となっている。
借金生活はやがては限界を迎え、転換を強要されるというのが常識である。しかし我が国の場合には、まだまだ何年も国債を増発し続けることができると筆者は考えている。供給余力があるためである。それが多くの国々と著しく異なる点である。
それだけに、目先の景気引上げのために財政赤字を増大させても、5年や6年で限界に至ることはないであろう。それを良いことにして、赤字財政政策を利用する誘惑にとらわれがちである。
その結果として、赤字分だけ借金残高が増加し続けて、膨大な借金になっていくと予想される。
2 経済力の低下で国際収支が悪化し悪性インフレへ
問題になるのは我が国の供給力が低下し、もの不足社会になった後である。そのような事態は来ないと思われているかもしれない。しかし我が国の経済力は着実に低下を続けている。少子高齢化が今後も続くために、この傾向を反転させることは難しいであろう。
経済力の低下は国際収支の悪化として現れる。過去何年もの大幅な黒字が累積しているため、現在の我が国の対外純資産は膨大な額となっており世界一である。それを使えば、国民は何年も働かずに左団扇で贅沢な暮らしができる。借金による楽しい生活を全国民が謳歌できるであろう。
無理して働いて良いものをさらに作る必要がない。働き過ぎが指弾される。ものは余っている。それらを使うことが景気を維持するために必要である。浪費が奨励される。
しかし、このようなことは永遠にできることではない。やがては我が国も、もの不足からインフレ経済へと転換する。国際収支は赤字になり、赤字が増大する。物価の上昇が加速する。金利が上昇する。
膨大な国債の利払いのために税収を全額投入しても不足するようになる。金利の支払いを止めることはできない。新規の国債が発行できなくなって、頓死になるからである。金利支払いのために新たに国債を増発しなければならない。国が借金地獄に陥る。国家財政の破綻である。
国民生活は悪性インフレで悲惨な事態となる。そのような国民を救済する余力が国にはない。その時点での国民は救われない。
3 財政再建の方法とその時点の経済水準の急落
借金生活が好ましくないことは誰もが知っている。しかし国家が借金することによって、現在の国民が豊かさを満喫していることを語る人は少ない。今の国民に罪の意識がないかもしれない。しかし、ことの重大さを知らないでは済まされない。
借金は早く返済するべきである。しかし、それには苦労が伴う。余分に働いて稼がなければならない。稼いでも自分で使わず、借金の返済に充てるため、生活水準を落とさなければならない。
国が借金を返済しようとすれば、国民はより多く働いて稼ぎ、稼ぎの中から税金をより多く支払う必要がある。そのために消費が減退し景気は下落する。国民生活は大幅に悪化する。
それが分かっているだけに、あらゆる理屈をこねて、その苦痛から逃れようとする。できる限り実行を先へ伸ばしたくなる。しかし、先へ送っても問題を解決することはできない。
改革をどの段階で実行するかが問題である。先送りしてきた結果として、すでに膨大な借金で対処のしようがなくなった感じである。しかし、これ以上、財政再建を将来の国民の手にゆだねて良いものであろうか。
莫大な国の借金の分だけ、これまでの国民が恩恵に浴してきたのである。その我々が借金を返済するのは当然である。
一刻も早く財政再建に取り掛からなければならない。それが遅くなれば、遅くなるほど減少させなければならない借金の額が増大していくからである。
そのためには国民の不退転の覚悟が必要である。甘い考えで始めれば、たちまち挫折するからである。目先の景気ではなく、将来の国民全体のことに焦点を当て、大至急で大改革に取り組まなければならない。
---望洋会(名古屋大学経済学部1956年卒業)への寄稿(2017.3.11)から---