名古屋大学
客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
2017.3.1
トランプ旋風の背景
―――低下したアメリカの経済力―――
トランプ新大統領の一挙手一投足にアメリカだけでなく、世界中が翻弄されている。
期待する向きがある反面、危惧を持つ人々も少なくない。目先の変化に注目することは必要であるが、さらに重要なのは先々の情勢の読みである。超大国アメリカの帰趨が世界に及ぼす影響は計り知れないからである。
トランプ氏が選出された遠因の一つにアメリカ経済の弱体化がある。第2次大戦後の圧倒な強さがなくなって久しい。その間にヨーロッパの復活から日本の発展、韓国や台湾などの躍進、さらには中国の急伸によってアメリカの経済的な地位は大きく下がってきた。
それにもかかわらず、表面的にはアメリカの経済は安泰に運営されている。しかし将来にわたって、今のままで推移するとは考えられない。全体としての経済力が低下してきているからである。
経済力を的確に反映するのが国際収支である。
かつては大幅な黒字を続け、世界中から膨大な資金を独り占めしたアメリカである。しかし相対的に経済力が弱まり、良い製品が安く作れなくなれば、輸出ができなくなる。海外から良い製品が安く輸入される結果として、国産品が売れなくなり、産業は弱体化する。
その結果として国際収支の赤字が急増した。膨大な赤字は一時ほどではなくなったものの、依然として巨額である。
赤字分だけ資金が海外へと流出する。アメリカが貯め込んだ莫大な資金はたちまち枯渇してしまった。普通の国では、ここで支払資金がなくなって、危機に陥る。
ところがアメリカのドルは基軸通貨であり、それを利用して、世界中から大量の借金をして凌いできた。その結果、アメリカの対外純借金は莫大な金額となっている。
このようなことが、いつまでも続けられるはずがない。根本からアメリカの経済を立て直す以外に方法はない。
トランプ氏が現れなくとも、もはや大変革を止めることはできないところへ来ている。
---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2017.3.1)から---