名古屋大学
客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
第169回 2017.1.1
平穏な日本の経済
―――経済政策による下支え―――
明るく希望に満ちた新年を迎えた国ばかりではない。新大統領の意向が注目されているアメリカ、国内世論が揺れるヨーロッパの諸国、政治体制の安定が課題になっている中国、不安定要因の解消が難しい中東などなど、世界の主要国が落ち着かない情勢である。
大きく下押しする要因はないとしても、主要国が自国の利益を優先するため、かつてのように力強く全世界の経済を牽引する国が現れるとは思われない。
幸い我が国の政治体制は安定している。ただし景気に力強さが見えない。経済が成長から見放されて4半世紀にもなり、多くの人々がゼロ成長に慣れ、それが当然視されるようになった感がある。
その意味では今年の経済も安泰であり、大きな落ち込みはないままに推移しそうである。
経済が成長するためには需要が増加しなければならない。そのためには人々の所得が増えることが必要であり、賃金水準の上昇が求められる。しかし先行きに明るさが見えないだけに、企業にとって賃金を上げることは難しい。
企業が将来を慎重に見ていると、投資が活発にならない。そのために全体の需要が伸び悩む。この傾向は今年も続くであろう。
経済を活性化しようとして安倍政権は懸命である。その結果、経済は多少拡大した。しかし息切れ感は否めない。
極端な資金の供給と異常な低金利による思い切った金融政策によって、日本銀行は景気の上昇を図ってきた。しかし資金過剰の中では効果は発揮できないで副作用だけが大きくなっている。
政府は財政政策を活用したいところであるが、すでに財政は破綻しているため、むしろ財政再建が緊急の課題になっている。
それでも安倍内閣は国家財政をさらに犠牲にして景気の維持を図るであろう。そのために今年の景気としては落ち込むことはないと考えられる。
東京オリンピックに向かった景気をつなげたいとの意向は共通するところである。しかし楽観は許されない。
---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2017.1.1)から