名古屋大学
客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
2016.12.1
大過なき一年の日本経済
―――災害多発にもかかわらず―――
今年1年を振り返ると、大災害で犠牲になった人が少なくない。経済活動も影響を受け、一部の部品不足から関連する多くの分野の生産が止まった。過去の災害の影響も残っている。
しかし人々の懸命の努力によって修復が進み、結果としては深刻な事態が長引くことなく済んでいると見ても良いであろう。
今年の焦点の一つが金融政策である。日本銀行は従来の積極的な金融緩和策に上乗せをしてマイナス金利を導入した。ところがその結果、目的としている物価の上昇などの経済全体の活性化には繋がっていない。逆に悪い面が強くなり、日本銀行も転換を図らざるを得なくなった。金融の力がなくなっていることを確認する事態となっている。
将来にわたって大きな影響を及ぼすのが再度にわたる「消費税引上げ」の先送りである。目先的には景気にプラスの影響になることは間違いない。しかし増税の延期によって、景気抑制の効果を先送りしたことになる。
政府は積極的な補正予算を組み、景気の振興を図っている。あらゆる施策を総動員している感じである。それにもかかわらず、全体としての景気に勢いがない。
為替相場が上下に大きく動き、輸出産業にとってやや厳しくなっている。世界の経済が低迷しており、トランプ現象もあり先行きは楽観できない。原油市況が上昇しているものの、それが石油の需要増加によるのではなく、生産調整の結果であるとすれば、我が国にとって原料高のマイナス面だけが心配される。
産業界を眺めると強弱まちまちである。企業の業績でも明暗が分かれる。株価に勢いがなく、膠着状況が続いている。それが将来に対する警戒感につながっているためか、企業の行動に積極性がない。
このように見てくるとパッとしない一年であったと思われるかもしれない。確かに勢いが見られないことは事実である。しかし問題を処理しながら安泰を保った経済状況の年であったというべきであろう。
---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2016.12.1)から---