名古屋大学
客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
2016.11.1
補正予算による景気の引き上げ
―――期待しすぎないように―――
安倍内閣は大型の補正予算によって景気を引上げようとしている。
政府が余分に資金を出せば、それを受け取った人や企業が使うであろう。その資金を受け取ったところがまた使うために波及効果が出てくる。
需要が増え企業は売り上げが増加する。生産活動が活発になり、人手不足となって賃金が上がる。将来の売り上げ増加を見込んで企業は設備投資を増やすに違いない。
懐が温かくなった人々は、より多く使うであろう。需要がさらに伸びる。企業もさらに多くの投資を行うようになる。このようにして景気が上昇気流に乗り、経済の成長率が高まることが期待される。
その結果、企業収益は増大し。人々の所得も増加し、消費も増える。そして政府は法人税が大幅に増えるとともに所得税も消費税も増加するため税収が大きく増え、財政赤字が縮小する。
景気が本格的に上昇すると良いこと尽くめである。それを誰もが期待している。
しかし現実には残念ながらそのように調子良くはいかない。
大規模な補正予算とは言っても、我が国全体の経済規模が国内総生産で500兆円であるところ比べれば小さい。それを倍増すれば効果も倍加するであろう。しかし現在の財政赤字が巨額であることから、赤字を大幅に増額することは非現実的である。
現実の経済状況は供給過剰であり、需要が増えても簡単に対応することができる。そのため新たに企業が投資意欲を掻き立てることは期待できない。将来の業績に自信がないため企業は人手不足でも賃金を上げられない。
将来の生活に不安があるため人々は消費を増やしにくい。そのために全体としての需要が盛り上がらない。よい循環に結び付けることは難しい。
補正予算は毎年組まれている。通常よりも上乗せ分だけの引上げ効果はある。しかし、それは決して大きくない。補正予算がなければ落ち込む分をカバーできる程度と考えるべきであろう。
---ISIDフェアネス ・パーフェクトWebへの寄稿(2016.10.1)から---