名古屋大学 客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
日本経済の長期的な展望
―――頼りにできない日本の政府―――2016年10月1日
我が国の経済は戦後、長期にわたり急激な成長を続けていた。
それが転機を迎えたのは1990年度である。それ以後はほとんど成長から見放されている。我が国の国内総生産は僅かながら右肩下がりとなっている。すなわち傾向として縮小しているのである。
この間、政府は経済の動きに対して無策でいたたわけではない。熾烈な戦争によって国内の生産能力が壊滅したため、戦後はもの不足からインフレ経済であった。インフレを抑えるために、絶えず景気抑制策が採られた。
短期間で戦前の水準まで復興を遂げた後も景気が過熱すると、金融引き締めにより、景気の抑制が図られた。そして不況が来ると逆に景気振興策が採られ、景気の上下を繰り返しながら全体として経済は急成長を続けた。
ところが、どれほど懸命に景気の引上げを図っても、経済水準が上がらなくなった。そこで多用された施策が赤字財政である。
半世紀にわたり赤字財政を続け、しかも赤字額を増額してきた。景気を上昇させるためには赤字額を上乗せする必要があるためである。今や我が国の国債残高が急増し、危機的な額となってしまった。
膨大な財政赤字によって、現在の経済水準ができている。もし財政の赤字を無くすれば、経済水準は1割以上も下落するであろう。
現在の経済に不満で政府に対し、より強力な施策を求める意見がある。しかし冷静に現実を見れば、政府による異常なまでの景気引上げ策によって、経済水準は大きく押し上げられているのである。
日本経済には余力が残っているため、今後まだ何年も赤字財政を続けることができる。それだけに国債残高は毎年さらに急増し、その後で再起不能の悪性インフレに陥ることが予想される。
もはや財政再建が避けられない。それが経済を正常な水準へと押し下げるだけに止まらない。そのうえに少子高齢化が進み、それが経済を悪化させる要因になる。
もはや破綻している政府に頼るわけにはいかない。企業も個人も自らの力によって対応する以外にない。その準備を急ぐ必要がある。
---セイコーエプソンWeb 税務会計情報ネットTabisLandへの寄稿(2016.10.1)から---