(みず) (たに) (けん) ()   

   (経済学者・1933年生)

勤勉で堅実な考え方を取り戻せ

(目先の自己の利益より将来の国のためを考えよう)

 

 ものが余る豊かな社会で楽しく生きるには、嫌な仕事を止め、好きなものを好きなだけ利用すればよい。

 収入がなければ借金すれば問題ない。自分が借金しなくても、国に借金させて使えば国民は豊かな生活を満喫することができる。

現在の我々は借金生活にすっかり慣れ、より豊かになるために、国の借金を増やすことすら願っている。

 技術を磨き新しいものを作り出すためには大変な苦労が必要である。 ところが、そのような苦労を厭う風潮がある。その結果、世界を席巻した日本製品が影を潜め、身の回りに外国製品が増えている。

 貿易収支が赤字になり、それが増大する傾向になるであろう。それでも当分の間は過去に蓄積した膨大な資産によって、豊かさを満喫できる。

 しかし、その限界に至ると事態は急転する。もの不足からインフレになり、金利が急騰する。

国債の金利支払いが急増し、税収の大部分を金利支払いに充てねばならなくなる。国債が多すぎるからである。国債を減らす必要がある。

それには借金生活の反対が避けられない。国民がより勤勉に働いて良いものを作り、少なく消費して、税金をより多く納める以外にない。

それを実施すれば経済水準は大きく下落する。分かっているだけに、理屈を付けて財政再建を避けてきた。

今まで我々は莫大な借金を作りながら楽しく生活する一方、将来の国民には、その借金を返済するため苦しい生活を強いてきたのである。

目先の自分の利益になることに賛成するのが当然との考え方が蔓延している。それは恥ずかしいこととの考え方が影を潜めてしまった。

自分自身のことよりも社会全体のことの方が重要であり、今より将来のことを重視するべきであるとの常識がなくなったように思われる。

このままでは日本は衰退を続けるであろう。戦後、日本の奇跡的な発展を支えた国民の勤勉で堅実な考え方を取り戻す必要がある。

---文藝春秋9月号2016.9.1P298-299超大型企画 戦前生まれの115人から日本への遺言への寄稿から---

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