名古屋大学  客員教授

                                   経済学博士 

金融政策による景気引上げは困難

  ―――マイナス金利の効果はない―――201661

 金融政策は異例ずくめである。大量の資金を民間へ投入し、そのうえマイナス金利を打ち出した。

 それによって企業の投資を活発にしようとするのが政策の意図である。投資が増えれば、そのために物を買うところから売れ行きが伸びて景気が上昇する。しかも投資が将来の生産力を高め経済をより力強く成長させる原動力になる。好ましいことばかりである。

 企業にとっても投資は重要である。現状に安住していては時代に取り残される。絶えず新しい分野へ進出することが必要である。

 ただし投資には多くの条件がある。まず成果が上がらなければならない。成果は投資を決定する段階では将来の見通しであり不確実のための見極めが難しい。

高度経済成長の時代では、ものごとを楽観的に見ることができた。全体が成長軌道の中にあるため、新機軸が実りやすかったこともある。たとえ失敗しても、やり直しができることもあった。社会全体として積極ムードであったため、流れに乗って投資を進めることに抵抗感が少なかった。

全体がそのような動きにあるため、そのための資金の確保が難しく、それが制約になることがあった。その場合には資金が提供されれば、喜んで利用したであろう。低い金利であれば、進んで活用したと考えられる。

昨今のように景気が低迷すると、状況は様変わりになる。資金は有り余っている。すでに金利は下がっており、マイナス金利といえども限界がある。問題は投資に対する成果に確証がないことである。

 景気の先行きを楽観できないと新しい物を作っても売れるとは限らない。周りにはすでに多種多様の商品が溢れており、さらに参入しても成功する保証がない。

全体として売り上げが伸びないために、企業の利益も増えず、いったん投資に失敗すると、取り返すことが難しい。案件があっても慎重にならざるを得ない。

この現実の下では、金融政策で景気を押し上げることは難しい。

---セイコーエプソンWeb 税務会計情報ネットTabisland への寄稿(2016.6.1)から---

 

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