国際収支の黒字が円高要因

                     名古屋大学  客員教授

    経済学博士  

膨大な金融取引の基本は金利差 為替取引の大きな部分が金融取引である以上、資金運用の判断の基になる海外との金利差が円相場に大きな影響を及ぼすことは当然である。為替相場には、現在ならびに予想されている金利差はすでに織り込まれているはずである。それだけに各国の金融当局が今後どのような判断をするかに関心が集まる。日本銀行が金利のマイナス幅を大きくすれば、円安になるであろう。アメリカの連邦制度理事会で大きく金利を引き上げればドル高円安になるはずである。ただし日銀による金融政策の歪みが問題となっており、さらなる緩和要因に大きく期待することは難しい。アメリカは金利の引き上げ意欲はあっても、景気の力強さが不足するため実施が先送りになっている状況である。

 

原油の価格が変動要因 原油をはじめ多くの資源価格が暴落した。そのおかげで我が国は輸入が激減し、円相場が上昇する要因となっている。それだけに原油価格の上下によって円安と円高の要因が生じる。産油国では価格の暴落によって倒産も増えており、原油の供給量は減るであろう。生産調整が功を奏して、ある程度の値戻りは考えられる。ところが資源に対する世界的な需要は基本的に戻りそうもない。中国の経済成長が以前のようになるとは考えられないからである。それに代わる国が出てくる気配がない。アメリカに昔日の力強さが見られず、ヨーロッパは移民問題で忙殺されている。日本も景気低迷が続き、世界経済を引っ張るところが見当たらない。したがって資源価格が大きく反騰することは難しいであろう。

 

経常収支の膨大な黒字が円高の基調要 為替相場はそれぞれの国の経済力を反映するのが原則である。経済力を示すのが経常収支と考えられる。我が国の経常収支は急激に黒字が増えている。それは輸出量が増えているためではない。過去に蓄積した資産が生み出す膨大な利益が出ているうえに、資源価格の暴落で輸入額が激減しているためである。その意味では黒字幅に変動要因を抱えていることは間違いない。しかし為替相場は対外的な経済取引に大きな影響を及ぼすだけに、国際政治の的になりやすい。そして経常収支の偏りを調整する有力な方法の一つとして為替相場があると考えられている。したがって今日の膨大な経常収支の黒字が基調としての円高要因であることを弁えておく必要がある。  (みずたに けんじ)---時局コメンタリー第1571号(2016.5.2月)への寄稿から---

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