名古屋大学 客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
国際収支の黒字拡大が円高要因
―――諸情勢によって翻弄される円相場―――2016年5月1日
我が国の国際収支の黒字幅が急拡大している。これほどの大幅な黒字を縮小するためには相当な円高が必要である。それが基調としての円高要因となっているはずである。
現実にはそれほどの動きになっていない。一つの理由は黒字要因が我が国の経済力を反映したものと言えないためである。
本来ならば生産力の増大から輸出が増加し、一方で輸入が減少するために黒字が増加すると考えられる。現実には世界経済の低迷の影響もあり、輸出は増えていない。輸入が激減しているのである。
原油をはじめとする資源価格の暴落が最大の要因となっている。中国経済の減速をはじめとする世界的な景気低迷の影響で資源価格が暴落しているためである。
それが資源国の経済を痛撃している。価格の暴落によって、採算が合わなくなり、倒産するところ出てきた。いずれは再び供給量が落ち込む事態が考えられないわけではない。
それによって資源価格が反騰すると我が国の輸入が増えて国際収支の黒字が減少する。それが基調として円安の要因になることは明らかである。
しかし供給が減少しても全世界の経済が以前のように拡大する事態にはなりそうもない。したがって資源の価格がたとえ反騰するとしても、その水準は以前には遠く及ばないであろう。
もちろん為替相場には、その他の多くの要因が影響を及ぼす。中でも大きいのは我が国のマイナス金利である。もはや円資金で運用しても利益を得ることは難しい。円を売りドルを買って、金利の高いドル資金で運用するほうが好ましい。それが円安ドル高の大きな要因になっている。
各国の為替相場はそれぞれの対外経済に大きな影響を及ぼす。それだけに対米など経済外交によって為替相場が大きな影響を受けることは我々が何度も経験済みである。
目先的には多彩な要因に左右されるが、基調としては経常収支の大幅な黒字が円相場に反映することを考えておかなければならない。
---セイコーエプソンWeb 税務会計情報ネットTabisLandへの寄稿(2016.5.1)から---