名古屋大学  客員教授

                                   経済学博士 

資源安の恩恵と陰

    ―――原油価格低下の効果は大きいが―――201631

 原油をはじめ多くの資源が大幅に値下がりしている。それらの大部分を輸入している我が国にとっては願ってもない状況である。原料や燃料の価格が低下して企業が助かっているのは当然であり、その恩恵は多くの消費者に及んでいる。

 値下がりのおかげで我が国の輸入額が減少しているため、貿易赤字が激減し、経常収支の黒字が増大している。

 経常収支の黒字は喜ばしい反面、為替相場が円高になり、その悪影響が心配される。ところが世界的な金余りから、大量の資金が金利差を求めて動くため、日米の金利差が為替相場へより大きな影響力を及ぼし、円高になっていない。

円高が進まないことは輸出産業にとって幸運である。ただし我が国の輸出の数量が伸びているわけではない。そこに世界の資源価格の低落が陰を落としているからである。

ここまで資源価格が暴落する背景には世界的な需要の急減がある。その基になっているのは世界的な経済の激変である。すなわち、長年にわたり急拡大を続けてきた中国が様変わりとなり、あらゆる資源に対する中国の需要が激減したことが大きい。

 その他の各国がその動きを補うことができれば問題はない。しかし景気の回復中と見られているアメリカに力強さが見られない。移民問題に揺れるヨーロッパに景気振興を求めることは難しい。勢いが良かった資源国は軒並み苦境にあえいでいる。

 事態の転換は難しい。各国の景気振興政策が底をついており、もはや期待できないからである。

主要国は財政赤字からの脱却を図らざるを得ず、金融政策もこれまでに限界をはるかに超える状況が続き、是正が必要となっているからである。

 世界的な経済低迷が当分の間、続くと考えられる。それが資源価格の低価格につながっている以上、我が国の輸出環境が好転する見込みは薄いであろう。厳しい情勢が続くと考えて対処しなければならない。

---セイコーエプソン税務会計情報ネットTabisLandへの寄稿(2016.3.1)から---

 

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