G20は手詰まり---円相場の引き上げ圧力は回避---
2016.2.28 名古屋大学 客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
1 世界経済の低迷是正は困難
上海で2016年2月26日から27日にかけて開かれたG20で共同声明が発表された。
低迷する世界経済を引き上げようと主要国が協議を重ねたものの、その方策は見つからない。
長年にわたる世界経済の拡大は大国の異常な犠牲の下で成り立っていたのである。それが限界に来ていた後、次の国が現れて流れを引き継いだ。
最初に大きな役割を果たしたのはアメリカであり、それを引き継いで中国が急拡大を続け、世界経済を押し上げ続けた。その間にヨーロッパも調子を合わせ、資源国を中心として発展途上国も波に乗った。
それらの国々が限界を迎えると、これ以上無理を続けることができなくなった。もはや世界経済を引っ張ることができる国が見当たらない。
2 金融政策は出し尽くし
景気振興のために各国・各地域で金融政策を利用してきた。多くの中央銀行が膨大な資金を投入し、金利を異常な水準まで引き下げている。
その結果、多くの国で資金が極端に余っている。それだけに、さらに資金を投入しても、資金がさらに余るだけで何の効果も出ない。すでに低下し尽くしている金利をさらに下げても、それで資金需要が掻き立てられる訳がない。
異常な金余りを是正することが必要な情勢の中で、それを急激に実行しないようにと依頼するのが精一杯である。
後述するように為替相場を円安にする金利の引き下げには反対の意向が強まり、逆の方向が求められる状況である。
要するに金融政策による景気振興は、もはや期待できなくなっている。
3 財政政策の出動は無理
景気振興に最も有力なのが財政政策である。ところが、この点でも各国が利用し尽くしてきた。我が国をはじめ多くの国々が膨大な財政赤字と国債残高を抱えて呻吟している。
財政に余裕のある国に財政政策の活用を求めているものの、難しいと思われる。それは財政の健全性を維持するために、それらの国々がどれほど努力しているかを考えれば明らかである。
例えば財政を健全化したドイツが、どれほどの犠牲を払って今日の姿にしたかを知れば、再び財政を赤字にするとは考えられないからである。
我が国を筆頭にして、今日の赤字財政を一年も早く脱却して財政を健全にすることこそ、将来の世界経済のために必要なのである。このことは今後、世界経済を押し下げる要因が大きいことを示している。
4 円相場の引き上げ圧力は回避
不況に苦しむ各国が採りがちな政策に為替相場の引き下げがある。それが他国の為替相場の上昇につながり、不況を転嫁することが非難の的になる。
適正な為替相場の水準がどこになるかは難しいが、原則は国際収支である。経常収支が黒字の国は為替相場を引き上げるべきであるとの正論がある。
原油安の恩恵を受けて経常収支が大きな黒字となっている我が国の為替相場が円高へ向かうべきであるとの考えから円相場を引き上げるべきという圧力を回避できたのは上出来と見るべきであろう。
円高が国内の景気を悪化させ、世界経済にもマイナスの影響を及ぼす。また、円相場を引き上げる方法が金利の引き上げにあるとすれば、それも景気の抑制要因となる。
このことは、これまで円安要因によって景気を下支えしてきた我が国の経済運営が岐路に立たされていることを意味している。
---名古屋大学経済学部望洋会への寄稿(2016.2.28)から---