消費税引き上げの本当の目的

                     名古屋大学  客員教授

    経済学博士  

軽減税率の範囲

 消費税を10パーセントへ引き上げる際、負担を減らすための方法で意見が割れている。方法と程度の両面で与党内でも折り合いがつかないようである。

 消費者が支払った税金が正確に国へ納められなければならない。しかし、そのために掛かる手数は膨大である。それをできるだけ少なくする必要がある。

小売りに携わる商店に中小企業が多いところから、配慮が欠かせない。しかし将来を考えれば、消費税はさらに引き上げざるを得ない。その場合を考えれば、甘くして、国へ税金が入らないことでは困る。この際できるだけ厳密にしておかなければならない。

 生活必需品にまで消費税を掛けるのは酷である。そこには配慮をすることが好ましい。この点に異論はないであろう。ところが、それをどの範囲にするかは大問題である。

 消費者の立場からは、できるだけ多くの品目を免税にしてもらいたい。ところが、それでは税収が減ってしまう。

同じ食料品でもそれが直接、消費者に買われるとは限らない。加工品の材料として使われれば、課税の対象になるであろう。どこまでで線を引くかによって違ってくる。

これらの問題はすでに多くの国で経験している問題である。消費税がほぼ20パーセント、最高で25パーセントになっているヨーロッパの事例から各種の警告も聞こえてくる。

課税はできるかぎり厳密にし、特例措置を少なくすることが重要である。例外品目も絞り込み、なくす方が好ましいとされる。

ところが、それを実行することは極めて難しい。政治がそれを許さない。弱者保護の点からは正反対の主張となるからである。

そもそも消費税は弱者に厳しいと言われ、それに配慮することが必要との意見がある。しかし消費税が今日まで世界で一般的になってきたことには背景がある。

累進課税の問題点が明らかになってきたことが大きい。一旦導入されると、民主主義の下では累進課税税率は次第に高まる。そしてそれが国家財政を破綻させる可能性がある。税負担の少なくなった国民が過大な国家の支援を要求するためである。

 

将来の国民のために

決めるのは政府であるが、最終的には国会である。国会議員は選挙で選ばれる。多くの国民の要請に従わなければ政治家は政治家でいられない。きれいごとでは済まされない。

多くの政治家にとって増税は反対である。選挙で明らかに不利になるためである。課税には特例措置で限免税を考えようとする。消費税についても同様である。

一部の政治家が正論を述べることがある。将来の国民のことを考えれば、今のままで済まないことは明白である。しかし、正論が通る状況ではない。妥協の産物として、消費税の引き上げは増大する社会福祉の財源確保のためとなっている。

しかし、そのような糊塗策によって目先を誤魔化すことができなくなってきた。財政赤字が膨大となり、長年にわたる赤字財政の結果として、国債残高が莫大な金額になってしまったからである。

現在は異常な低金利のために支払金利が極めて少なく、借金の過大さが表面化していない。

これほどの低金利がいつまでも続くとは考えられない。やがて普通の金利へと上昇すると、金利支払いのために税収の大部分はなくなるであろう。

その時の国民生活は悲惨なものとなる。国家は財源がないため、社会保障など必要最低限とみられている支出もできなくなるためである。

このような悲劇的な事態は長期間にわたることになろう。金利支払いの元になる国債の残高が大幅に減少するまで続く。

我々が作り上げた国の借金である。我々の責任で借金を減らしていくことが必要である。その返済を後の世代に背負わせるわけにはいかない。

今、我々が財政支出を大幅に削減したうえで大増税をする必要がある。それによって財政収支を黒字にした分しか国の借金は減少しないからである。消費税の大幅な引き上げの目的は「国の借金を削減するためである」と明確にするべきである。      (みずたに けんじ)

---時局コメンタリー第154715.11.10火から---

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