株価乱高下と経済の動向

                     名古屋大学  客員教授

    経済学博士  

株価を押し上げた余剰資金

 世界の主要な株式市場で株価の乱高下が続いている。

株価は将来の景気を反映すると考えられている。しかし現実の株価は売り買いによって上下する。

そこには金融が大きく影響を及ぼす。膨大な資金で買えば株価は大きく上昇する反面、上がり過ぎて売られれば株価は下落する。現在は世界的に膨大な資金が供給されており、過剰な資金が力を発揮している。

その基になっているのは、政府と中央銀行による景気刺激策である。長年にわたる景気振興策によって膨大な資金が供給されてきた。

これほどの資金過剰になると資金の供給量を増減することによって経済を動かすことが難しくなる。

資金が大量に余っているところへ、さらに資金を投入しても、それが景気を刺激することにはならない。また、膨大な資金過剰を吸収することは長期にわたる資金の吸収が必要であり、余剰資金が少なくなった後でなければ引締めの効果が期待できない。

金融政策の効力を取り戻すためには、金融情勢の正常化が必要である。それには早急に大量の資金吸収を行わねばならない。それは金融市場の変化を通じて株価を引き下げる力として働く。

長年にわたり世界的な株価の上昇要因となり、景気を引き上げてきた情勢の転換が予想される。

直接的には中央銀行による大量の資金の供給が行われなくなるだけではなく、余剰資金の吸収が始まると考えられる。

より大きな力になるのは世界的な財政赤字削減の動きである。その必要性については十分に認識されている。しかし実行は景気の下降を覚悟しなければならないため容易なことではない。それでも避けられないほどの事態となっているのが我が国をはじめ多くの国の財政事情である。

そのため世界の多くの国では財政政策によって景気を下支えすることが難しいだけではなく、景気を下押しする要因を抱えることになる。

 この段階で長年にわたり世界経済を押し上げてきた中国経済に大きな変化が出てきた。すでに実体経済は悪化を続けてきたものの、上海株式市場の株価高騰がそれをある程度覆い隠していた面がある。それが一挙に変わってきた。

 

中国はじめ世界の経済は低迷へ

改めて実情を眺めると、中国経済が短期的に元に戻ることは難しいと考えざるを得ない。しかも長期的には少子高齢化の急進が予想されており、事態は深刻である。

さらには経済の基盤である社会の安定性に問題があるように思われる。古来、広大で多様な中国地域を一つにまとめていくことは極めて難しかった。混乱が続く可能性があり、その間に外交的な摩擦問題が経済取引にマイナス要因となる恐れがある。以前のように中国経済の発展が世界経済を成長させるようになるとは考えにくい。

アメリカの経済は復活しつつあるとはいえ、昔のように世界全体を押し上げる力はない。ヨーロッパはギリシャ問題に加えて、新たな移民問題に揺れていて、経済成長どころではなくなっている。

このような状況で世界の経済は低迷を続け、再成長を期待しにくい。それが資源国を直撃している。かつては資源国を含む中進国の躍進が世界経済を押し上げていた。それが逆になってきている。それがまた資源価格の低下、低迷につながり、悪循環になってきた。

これらを総合すると、我が国経済への影響と採るべき対策は明らかである。

世界経済は当分の間、低迷を続けるであろう。そのため我が国の輸出環境は良くならないと思われる。ただし、我が国の製品の質の高さは世界に知られており、その優位性を発揮することができるであろう。資源価格の下落と低迷は輸入国である我が国にとっては有利である

国内では経済が成長する要因を見つけにくい。少子高齢化は予定通り進むであろう。人々は将来の生活設計を考えて、無駄遣いを少なくしようとする。企業は有利な投資機会を見つけることができないために積極的な行動には出ないと思われる。財政再建のために政府支出は縮小せざるを得ない。そのうえ増税が景気を悪化させる。

このような事態は今後、長く続くと考えられる。それを前提として、国民も企業も中央政府も地方政府も覚悟を決めて対応しなければならない。その結果はさらに景気を悪化させる。分かっていても、いかに先取りして対処するかを考えざるを得ない。   (みずたに けんじ)

---時局コメンタリー第154015.9.14月(時局心話会)への寄稿から---

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