名古屋大学  客員教授

                                                      経済学博士 

経済成長への無理な願望

     ―――すでに経済拡大の恩恵を十分に受けている―――201591

 デフレからの脱却を願い安倍政権は高い経済成長を目指してきた。 

 経済が拡大すれば、すべての面に良い影響が及ぶ。企業は売り上げが増加し、収益が急増する。その恩恵は従業員に行き渡る。ボーナスが増加し、給料も増えるであろう。人手不足から雇用情勢が良くなり、世の中が明るくなる。

 景気の引き上げを政策目標に掲げた政府の政策の成果として政権への支持が高まるであろう。それを梃子にして政府が力点を置く施策を推進することができる。

 経済成長が高まることは政府自身の大問題である財政赤字の縮小のために極めて有効である。高い経済成長によって企業収益が増加すれば、法人税が急増する。人々の収める所得税も増加する。消費活動を反映して消費税も増える。そのため国の税収が伸びる。

 それがどの程度になるかについては諸説がある。筆者は税収の伸びが経済成長率をやや上回る程度と考えているが、それよりもはるかに高いと言う人もいる。ともかく経済が拡大すれば国の税収が伸びる。

それによる財政赤字の縮小が最良の財政再建策であることは間違いない。高い経済成長が長く続けば、税収が増大し、やがては財政収支が均衡することも夢ではなくなる。そうなれば国民が嫌がる増税を画策しなくてもよく、犠牲を強いる財政支出の削減も必要なくなる。そのために誰よりも景気の上昇を望んでいるのは政府自身である。

 政府は国民の意欲を盛り上げるためにも、明るい将来を描き、高い経済成長を目標にしてきた。それはすべての人々の要請でもある。多くの人が希望を膨らませて活発に行動すれば、全体として活力が出て景気が上昇する可能性が大きくなるからである。

 それがどの程度の結果になるかは別問題である。かつては年率7パーセントを越えることも期待できた。現実には2パーセントも無理であり、足元の数値はさらに下回っている。

 将来を明るく見て積極的に行動することは重要である。しかし、現実離れした理想論だけに依存して将来計画を建てるわけにはいかない。現実には政府による長年の膨大な財政赤字によって日本経済は異常に拡大してきており、その恩恵を我々は大いに受けている。そのうえ、さらにと望むことは極めて難しいと考えるべきである。

---税務会計情報ねっ島TabisLand Hotビジネス情報への寄稿(2015.9.1)から---

 

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