名古屋大学 客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
2015.9.1
すでに経済拡大の恩恵に浴している
―――さらなる経済成長は無理―――
全体の経済が成長すれば、企業は売れ行きが上向き、利益が増加する。その恩恵は従業員である個人のボーナスや賃金の上昇に反映される。懐が温かくなれば、人々はより多くを買い求めるであろう。それが景気をさらに押し上げる。
その結果として、企業の収益がますます増大する。個人の所得も増加する。個人の消費も増える。おかげで国は法人税が増大する。所得税も消費税も増える。
現在、膨大な財政赤字を抱え、その削減に懸命な政府にとって、渇望している状況になる。すなわち全体の経済が拡大すれば、国の税収が増大する。高度経済成長が本格的に戻ってくれば、税収は大幅に増加し、財政赤字は急激に縮小するであろう。
それだからこそ政府は懸命に景気の上昇を画策しているのである。それは全国民やすべての企業の要望に応えるだけではなく、財政赤字を圧縮しなければならない政府自身のためにも必要なことなのである。
この考え方は40年以上も続いている。この間、我が国の政府は一貫して強力な景気刺激を続けてきた。本来なら考えられない無理を重ねてきたのである。
すなわち我が国の経済水準は長年にわたる政府の経済政策によって大きく押し上げられてきた。そのために利用されてきたのが膨大な赤字財政政策である。そのお蔭で現在の我々は大変な恩恵を受けているのである。
ところが、そのような意見を聞くことは少ない。むしろ現在の経済が成長路線から取り残されていることへの不満が大きくなっている。そして更なる経済成長が求められ、それを実現できない政府の責任が追及されている。
しかし、そのような経済拡大という難題を政府に突き付けても、もはや無理であることは分かっているはずである。企業も個人も現状が異常な恩恵に浴しているとの認識を前提として将来を考える必要がある。
---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿(2015.9.1)から---