名古屋大学  客員教授

                                                      経済学博士 

 金融政策への過大な期待

     ―――極端な金余りでは限界―――201561

 日銀が大規模な資金を供給するようになって2年以上が経つ。

 その結果、金利は極端に低下し、円相場は急落し、株価は大きく上昇した。それまで円高に苦しんでいた主要産業の輸出企業は恩恵に浴することになった。株価の上昇は先行きの景況感を明るくし、経済に活力を加えることができた。

 ところが、どの程度の経済成長になったかと言えば、期待されたところには遥かに及ばない。

 今回の金融政策の狙いは次のようなものであったと考えられる。中央銀行による大量の資金供給によって、企業も個人も潤沢な資金を得て投資や消費を増やすであろう。それが需要を増やして景気を上昇させ、それがきっかけになって人々の経済活動に弾みがつき、経済が成長を続けるはずであるとするものである。

 現実には、そのような動きにはなっていない。原因は異常な金余りである。

 長年にわたり供給過剰の経済が続いてきたため、企業は投資意欲をなくしている。多くの企業は自己資金の範囲で必要資金を賄うことができる。したがって外部への資金需要が極端に縮小している。

 一方で膨大な資金が供給されてきた。国際収支の黒字分だけ海外から膨大な資金が流入する。財政赤字分だけ民間へ大量の資金が滞留する。そのうえ日銀による資金の供給がある。

 現実には資金の余剰は莫大な金額となっており、資金の値打ちは極端に落ちている。そこへさらに資金を投入しても、それらが使われるはずがない。資金余剰がさらに嵩むだけである。

新たに提供された資金が使われることはなく、需要の増加に結び付くはずがない。したがって景気の引き上げに役立つことにはならない。

それは当初から分かっていたことである。極端な資金過剰の社会では金融政策は無力なのである。この状況は当分の間、変わることなく続くであろう。我々は金融政策によって景気が良くなるとの過大な期待を抱くわけにはいかない。

---セイコーエプソンWeb 税務会計情報ネットTabisLand への寄稿(2015.6.1)から---

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