名古屋大学  客員教授

                            経済学博士  

  2015.6.1

    金融政策の限界

    ―――極端な金余りでは―――

 金融政策によって景気を良くしようとするのが世界の流れである。資金を大量に提供すれば、経済活動が活発になり、景気が良くなると考えられているためである。

 日本銀行が本格的に大量の資金を供給し始めて2年以上になる。この間における成果は目覚ましいものがあった。金利が大幅に下がり、外国為替相場で急速な円安が進み、株式相場が大きく上伸した。

 その他の要因もあるものの、これらの動きは金融政策によるところが大きかったと見てよいであろう。

 円安によって、主要産業である輸出産業が大きく潤っている。株価が上昇すると将来の景気が良くなると考えられるところから、人々の行動が積極的になり、それが一層景気を押し上げる。

 しかしながら、その結果として、どれほど日本経済が拡大したかを見ると、期待には沿わなかったと言わざるを得ない。

 金融政策に期待されたのは、経済活動を刺激することにより景気を上昇させることのはずである。すなわち供給された資金が金利の低下を伴って、投資活動を活発にし、消費を増やして全体の需要を拡大し、景気を上昇させることを狙ったはずである。

 その効果はほとんど出ていない。日銀によって提供された膨大な資金は民間で使われることなく、日銀へ無駄に預けられたままになっている。これでは実体経済を動かすことにはならない。

 その原因は民間部門における極端な金余りにある。

 我が国では長年にわたり供給過剰が続き、投資をしても利益が得られなくなったため、資金需要が落ち込んでいる。そこへ莫大な資金が供給され、民間段階の資金余剰が異常に大きくなっている。

 資金が不足して経済行動に支障がある場合、資金を供給すれば投資などの経済活動が活発になるため、金融政策は有効である。これに対し資金が過剰な場合には金融政策の効果は極めて限定的である。

 それは当初から分かっていたはずである。そして予定通りの結果となっている。今後も金融政策が実体経済を動かす力はないと考えざるを得ない。

---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿(2015.6.1)から---

 

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