名古屋大学  客員教授

                                                      経済学博士 

 格差是正は長期策として

     ―――短期的な解決策の問題点―――201551

 人間社会では能力や環境が異なるために差ができることはやむを得ない。それだけに生じてきた格差を極力縮小することが望ましい。

格差を是正する方法としては、より恵まれない人を救うことが必要である。それは人道上の見地からも好ましいし、多くの人の共感を得ることができる。したがって政治的にも受け容れられやすい。

 もし弱者が少数であれば簡単である。大勢の人々が少しずつ負担すれば済むからである。ところが一旦この流れ、すなわち弱者を救済することが始まると、弱者が増えてくる可能性がある。

 その場合に救済を縮小したり、対象者を削減することは困難である。従来通りの救済を続けるためには、より多くの財源が必要になる。ところが経済力が弱いと、たちまち限界に至り、方針の転換を迫られる。

 それが一般の家庭であり、中小企業も同様であろう。それに比べると巨大企業は余裕があり、耐える力があるため、簡単に方針を変更する必要はない。それでも、いずれ限界が来ることが分かれば、経営者も従業員もどこかで転換を図らなければならない。そして破局の前に転換するであろう。

 ところが国の場合にはそれが難しい。多くの国民にとって国はあまりにも偉大で遠い存在である。国の何十年も先のことよりも自分の目先の生活のほうが重要と考えるであろう。その結果として身の回りを重視して国の将来を犠牲にすることになりがちである。

 その典型が格差の是正である。格差を是正する趣旨に賛同しない人はいない。流れができると、それを加速する力が働く。

負担するのが国家であると、それが将来は国民の一人一人に降り掛かることを忘れがちになる。無責任な政治家が大衆を煽って福祉の充実を訴える。マスコミが迎合する。反対する者は国民大衆の敵だと指弾される。

結果として国家の将来がおかしくなる。その点ですでに限界を超えているのが我が国の現状であり、それを弁えて企業としても個人としても対応を考えるべきところへ来ている。

---セイコーエプソンWeb 税務会計情報ネットTabisLand への寄稿(2015.5.1)から---

 

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