名古屋大学 客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
2015.3.1
物作りの復活
―――期待される製造業の復権―――
円安の効果がようやく現れ始めた。日本の製品が割安になり、国際競争力がついてきて、輸出に有利に働くためである。
価格が売れ行きに影響するのは当然である。しかし、より大きいのは購入する側の状況である。我が国からの輸出については、相手国の景気が重要になる。
大きな輸出先であるアメリカの景気上昇が好い影響を及ぼしている。ただし、かつてのアメリカとは異なり、世界の経済全体を引き上げるような力はなくなっている。
アメリカ以外の国々の景気は芳しくない。ヨーロッパは今後も低迷を続けそうである。中国の経済成長率が落ちてきた。日本の経済も成長しない。
それが石油をはじめ各種資源の価格低下につながり、ロシアをはじめ多くの資源国が苦境に追い込まれている。
世界全体の景気が芳しくない。これでは我が国からの輸出を伸ばすことは難しい。たとえ円安でも目立った輸出の増加につながらないのは仕方がない。
そのような短期的な効果を期待する向きには文字通り期待外れになるであろう。しかし、より長い目で見ると、大きな変化がうかがわれる。
海外へと生産拠点を移すことばかりを考えていた産業界に、国内で生産しようとする気運が出てきたからである。
中国をはじめとして進出先の賃金が上昇してきた。そのため海外進出による賃金コストの低さは以前ほどではなくなっている。一方、円安のために日本の賃金の割高感が薄れてきた。
海外における事業に伴う各種の危険性が昨今さらに高まっている。社会全体の安全性と効率性を考えれば、我が国における優位性が見直されるのは当然である。
この動きが一時的なものであっては困る。将来を展望し、腰を据えた取り組みになることが望まれる。これこそ日本の産業の復活であり、経済の根本的な成長の原動力になるためである。
---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2015.3.1)から---