アベノミクスの成果は上がっている

      名古屋大学  客員教授  経済学博士  

3本の矢の効果

 アベノミクスの効果が出ている。その結果として今日の経済水準がある。

 ただしアベノミクスの3本の矢がすべて功を奏しているわけではない。

第一の矢である金融政策は金融市場へ大きな衝撃を与え、円安と株高をもたらした。それらが景気を上昇させたことは間違いない。ただしそれが実体経済の拡大へ結び付いたわけではない。

 今日の我が国における金余りは極端である。これほど資金が余っていると、そこへ日本銀行がさらに資金を供給しても金余りを助長するだけである。供給された資金が投資など実体経済を押し上げるために使われることはない。

 この状況は、これまでと同様に今後も続くであろう。将来にわたって当分の間、金融政策の効果はないと考えられる。

 景気を押し上げたのは第2の矢である財政政策である。安倍政権の発足にあたって膨大な補正予算が組まれた。その大量の資金は2013年の半ば過ぎから民間へ放出され、景気を引き上げた。その動きが20144月の消費税引き上げを目前にした駆け込み需要に結び付いて経済を拡大させた。

 ただし2014年度の予算は控え目であり、財政面からはむしろ景気の足を引っ張るようになっている。よほど思い切った補正予算を組まないと、景気を維持することはできないはずである。

 もちろん当面の景気のことだけを考えれば、大量の財政支出を実行すればよい。しかし我が国の膨大な財政赤字と異常に巨大化した国債残高を考えれば、財政再建が必要なことは誰でも分かることである。財政赤字を積み増すことには無理がある。

 成長戦略にあたる第3の矢は極めて重要である。ただし成長政策は長年にわたり作成され実行されてきているものが大部分である。必要な施策であることは分かっている。しかしその成果は簡単に出るものではない。長期政策であり、短期的な効果を求めても難しい。

 アベノミクスの中身を見ると、もともと効果が期待できないものと長期策のために短期的な成果を求めることができないものがあり、赤字財政の積み上げのみが効果に結びつくに過ぎない。そして、それだけの効果はあったと考えられる。

困難な成長率の引き上げ

 もしも経済の基調が右肩上がりであれば、景気の上昇によって経済成長率は大きく上乗せになり、高い成長率になるはずである。ところが残念なことに我が国の経済は右肩下がりとなっている。

 政策がなければ、経済規模は縮小した可能性がある。幸いにもアベノミクスによって一時的には小幅ながら拡大し、その後も縮小幅が小さくなったと考えられる。

 我が国の経済は国家財政の膨大な赤字によって異常に大きく押し上げられている。それが長年続いているため、今後も続くと思われている。しかし財政の再建が必要であり、そのためには財政赤字を大幅に削減せざるをえない。それが従来とは逆に経済を長期にわたり縮小させる。

 我が国ほど極端ではないものの、アメリカやヨーロッパ諸国でも同様の傾向がある。世界的に方向の転換が進むと考えられる。その影響で今年の世界の景気は思わしくないであろう。

ヨーロッパ経済は低迷が予想され、中国の成長率も下がりそうである。資源国は需要の減退による価格の低下によって、苦境に陥る可能性がある。景気がよいと言われるアメリカもかつての勢いはなく、世界全体を引き上げる力はない。

 円安を利用して輸出価格を下げても、肝心の世界の購買力が低下すれば、輸出が増えるとは考え難い。

 国内の需要も盛り上がる要因が乏しい。政府は賃金を上げて個人の所得を増やし、消費の増大に結びつけようとするが、景気の先行きに慎重な見方があり、企業は防衛上、用心するであろう。売り上げの伸びが期待できないと、企業の設備投資意欲は盛り上がらない。

 政府は引き続き懸命に経済拡大を目指すであろう。しかし我が国は自由主義経済であり、経済の主体は民間の個人と企業である。政府の役割は限られている。

その中で安倍政権が精一杯努力をしていることは間違いない。その結果として低下する経済水準をある程度は支えるであろう。ただし現在の水準を維持することが精一杯なのではなかろうか。 (みずたにけんじ)

---時局コメンタリー第150615.1.13火時局心話会への寄稿から---

inserted by FC2 system