投資で目先の需要と将来の生産力を

                     名古屋大学  客員教授

    経済学博士  

デフレ対策には需要の拡大が重要

長年にわたりデフレが続いてきた。膨大な生産力が供給過剰として景気を抑えてきたのである。

景気を良くするためには需要を掻き立てる必要がある。そのためにはどのような浪費も歓迎である。それによって経済の水準を引き上げることができるからである。

もちろん需要の一翼を担うためには投資も考えられる。ところが本格的な投資は歓迎されなかった。投資によって生産力が上昇すると、供給過剰が将来さらに上乗せになるからである。それでは景気を抑制することになってしまう。

生産力の増強につながらない需要が求められたのである。個人の浪費は望ましい典型である。企業活動でも、社会の浪費につながるようなものが受けた。

どれほど買うことを勧められても、資金がなければ買うことができない。そこで各種のローンが勧められた。それによって消費水準が高まれば、景気が良くなり、賃金などの所得も増大していく。すなわち、すべての人々がその恩恵に浴することができる。

国や地方の公共支出も同じである。税金という貴重な財源を基にしているのであるから、無駄は許されないはずである。しかし早急な景気振興という錦の御旗の前では、効率化が後回しになることもあった。

本来は許されない国債の発行という非常手段が景気振興のために常に利用されることになった。その結果として考えられないほど膨大な国債残高を累積させるに至っている。

このような風潮に対する反対論が出て来ない。それは、いかにデフレが深刻であったかを物語っている。と同時に、この過程で我々自身がこの流れが当然であると考え、それが極端な供給過剰という特殊な環境の下でだけに通用することが忘れられている。

一度出来上がった習慣はなかなか変わらない。勤勉で貯蓄心が旺盛な国民性がデフレの原因のように言われ、その反対の習慣が根付いたわけである。今さら元へ戻すこと難しい。その必要性を感じることもない。

 

発展のために生産力の増強を

ところが日本経済の状況は変わってきている。人手不足が急に話題になるようになってきた。あれほど膨大であった貿易の黒字が赤字に転落している。

その根源が問題である。少子高齢化が進み、いつの間にか人手が不足するようになってきた。この動きは簡単に変わらない。むしろ今後は加速するはずである。

国内で製品を作っても採算が合わなくなって久しい。企業は懸命に海外で生産するように体制を作ってきた。それが功を奏し、国内で生産するよりも安くてよい製品が海外でできるようになった。

結果として、我が国からの輸出が伸び悩んでいる。逆に海外からの製品輸入が増加してきた。その結果として貿易収支が逆転し、大きな赤字になっている。

そこには原子力発電が停止したことに伴い天然ガスの輸入が急増したという特殊な要因もある。しかし、それだけではない。我が国の相対的な生産力の低下がこの形で表れている。

この動きは先進国が経験してきたことである。我が国もイギリスやアメリカがたどった同じ道を歩んでいるのである。

このままでは日本経済は衰退の方向へ向かわざるを得ない。それを阻止し反転を目指す必要がある。

それは簡単ではない。今後、長年にわたり再発展のための努力を積み重ねる必要がある。生産力の増強である。

そのためにはあらゆる分野における投資が必要である。その気構えを植え付けなければならない。中心となるのは企業である。その企業を支え導くのは経営者であり従業員である。

人の考え方を変えていかなければならない。それは気が遠くなるほど困難な道である。それを承知したうえで実行に移すことが必要である。

現在はまだデフレであり、需要の拡大が求められている。その需要を投資が担うべきである。その投資が実を結ぶ将来に生産力の増大になるからである。

幸いにも、膨大な資金が余っている。すぐれた技術が身の周りに山のようにあり、優秀な人材がまだまだ活躍できる。これほど条件がそろっている国はない。それを役立てるべきである。 (みずたに けんじ)

---時局コメンタリー第148514.8.5火への寄稿から---

 

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