名古屋大学 客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
2014.5.1
国際収支こそ国の経済力を示す
―――国際収支の改善は容易でない―――
我が国の国際収支は長年にわたり大幅な黒字を続けてきた。そのため、世界各国から是正を迫られ、黒字の縮小が長年にわたる課題であったため、赤字になることの心配を本気でしたことがない。
膨大な黒字を続けた貿易収支が赤字に転落して久しい。それでも、そこには大震災から始まった原子力発電の停止による天然ガスの大量輸入による一時的な要因が大きいのも事実である。
しかし、それが簡単に解消できそうもないないだけではなく、各種の製品の輸入が増え続けている。一方では円安が進んだにもかかわらず、輸出が意外にも伸び悩んでいる。そのために貿易赤字が一向に縮小しそうもない。
それでも全体として大きな問題とならないのは、所得収支が大きな黒字を続けており、経常収支が赤字になっていないからである。
ただし、この黒字縮小の傾向は今後も続き、赤字化と赤字の拡大へと進むことが予想される。そのために我が国においても国際収支の問題が真剣に取り上げられるようになると考えられる。
ところが、その解決策は容易でない。輸出の増大と輸入の削減がその基本であるが、そのいずれも極めて難しいからである。
海外へ売ることが出来る立派な物を作り出すことは簡単なことではない、かつて我が国で作って輸出をしていた製品の多くが、海外で作られて我が国へと逆に輸入されている。繊維製品から電気製品へと多くの品目が国内で作られなくなってしまった。国内での生産が採算に合わないからである。
これが全体としての傾向になると、それを再び元へ戻すことは難しい。経済社会の考え方が変わってしまっていると考えられるからである。
長年にわたり続いた物余りの中では。たとえ良い物を作り出しても、それが報いられなくなっている。
長期的な修練を経なければ一人前になれないような物作りの人気がなくなり、早く一人前になって、はなやかな舞台で脚光を浴びるような場面に登場したいと願うのは当然かもしれない。
この傾向をもとへ戻すことを考えなければならない。生産力こそ我が国の経済力の基本であり、それは長年にわたる地道な企業と国民による努力の積み重ね以外に達成できないことだからである。
---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2014.5.1)から---