アベノミックスの金融政策は

功を奏するか?

                    東京福祉大学  大学院教授

    経済学博士  

 

金融政策による物価の引き上げの筋道

  政府と日本銀行は金融政策を活用して物価を年率2パーセントへ引き上げようとしている。

「資金を大量に供給するために、あらゆる方法を総動員する」との力強い宣言の効果が出ている。為替相場が大幅な円安になり、株価が高騰している。それが人々の気持ちを明るくし、先行きに対する景気の見方が違ってきた。すべてが好転してきている。

問題がまったくないわけではない。円安によって輸出産業が恩恵を受ける反面、輸入原材料の価格が上がり、物価が上がり始めた。このこと自体は必ずしも好ましいことではない。不景気の物価高になり、国民生活が苦しくなって、物価を上げる趣旨に反するからである。

  しかし株価上昇の効果は偉大である。株価は最大の景気判断指標であり、しかも先行指標である。先々の景気が明るくなれば、企業の行動も活発になり、人々の気分も前向きになる。それをメディアが取り上げて一層ムードが高まる。

  気分だけで景気がいつまでも持つわけではない。実需の裏打ちが必要である。それが年の後半に政府の財政資金として出てくる。

大幅な補正予算の資金が大急ぎで大挙して民間へ投入されるからである。景気に弾みがつけば、今まで控えめにしていた企業が国内で投資を活発化させる。個人の消費も膨らむであろう。

このようにして需要が増えて、はじめて物価は本格的に上がる。

しかし物価の上昇率が2パーセントに達するためには、相当な需要の拡大が必要である。我が国における供給余力が膨大なためである。

経済取引には資金は必須である。資金が不足すると、経済活動ができない。したがって資金が供給されれば、買うことができ、需要が盛り上がると考えられるかもしれない。

それは資金が不足する普通の国の場合である。全体として資金が不足していると、資金が投入されれば、需要を引上げることができる。

  ところが現在の我が国では資金が大量に余っているのである。

 

膨大な資金の供給による異常な資金過剰

  景気の低迷が長年にわたって続いているため、企業の投資が盛り上がらない。そのため資金需要が極端に小さくなっている。多くの企業は自然に還流する資金の範囲で投資資金を十分に賄えている。外部へ資金を求める必要がない。

  一方、資金は大量に民間部門へ流れ込んでいる。

  我が国では良いものを安く作ることができる。おかげで我が国の製品が世界中で珍重され、世界各国へ輸出ができている。これほど品質が良く安い製品が国内に溢れているのであるから、わざわざ外国から輸入するものはない。

  何十年にもわたり国際収支の経常収支は大幅な黒字が続いた。黒字分だけ資金が海外から国内へ流入する。それが莫大な金額となっていた。

  それよりもはるかに上回る大量の資金が政府から民間へと支出されている。本来、政府は民間から税金として納めてもらった範囲で財政支出をすることになっている。

  ところが現実には税金が少なく、それよりもはるかに大きな支出が行われてきた。すなわち国家財政は莫大な赤字を続けてきた。赤字分だけ余分に民間へ資金が提供されている。それが半世紀近くも続いているのである。赤字額は傾向として増え続け、昨今は40兆円を超える膨大な金額になっている。それだけの資金が民間に供給されているのである。

  その上、日本銀行による大量の資金供給が続いている。これほどの資金余剰は古今東西で例がないと思われる。10年物の国債の金利が1パーセントを割り込む異常さである。

  国際収支が赤字に転じようとしている。赤字額は今後増加する可能性が大きい。しかし財政赤字は簡単に解消しない。赤字幅を縮小するのが精一杯である。このような状況の中では日本銀行がどれほど金融政策を効かせようとしても、到底効果を発揮することはできないと考えられる。

  膨大な資金は将来デフレが終わりインフレに近づくと、猛烈な仮需要の原因となり、一挙に物価を高騰させるであろう。

それは相当後になるだけに、そこまでの心配は必要ないと思われる。それでも、そのような禍根を将来にもたらすことだけは念頭に置いておく必要がある。                            (みずたに けんじ)

---時局コメンタリー第1421号への寄稿(2013.4.16火)から---

 

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