東京福祉大学 大学院教授

                                                      経済学博士 

  低迷期に入るか世界経済

            ―――耐えられなくなった各国の財政赤字―――201171

  一度は大きく落ち込んだ世界の経済は急激な回復を示した。

金融危機を発端として発生した景気の急落に対処するため、各国政府がなりふり構わぬ強力な対策を断行したためである。各国の政府は思い切った財政政策を発動してきた。政府による膨大な資金の投入によって、景気は底を打ち急速に回復していった。

その反動が出てきた。膨大な財政赤字が発生し、放置できなくなってきたからである。

たとえ財政の赤字が出ても、それによって景気が刺激されて経済が拡大すれば、それにつれて税収が増大し、当初の赤字を補填することができると考えられるかもしれない。確かに経済拡大が続けば、やがては財政赤字を解消することができるはずである。

現実はそれほど甘くない。景気は回復しても、それに伴う税収の増加は当初に投入した資金には遠く及ばないからである。ほとんどの国は以前から財政赤字に悩んでいた。そこへ赤字をさらに上乗せしたのであるから、結果として膨大な赤字になっている。多少の赤字が縮小しても、もはや放置できる赤字額ではない。

もちろん国によって事情はまちまちである。国家破綻の危機に直面している国もあれば、まだまだ余裕のある国もある。それは借金の大きさだけではなく、経済全体の情勢によって違ってくる。最終的には資金繰りがつくか否かが鍵を握る。

資金が借りられるかぎり問題は表面化しない。しかし赤字体質をいつまでも続けることはできない。やがては不足する資金が借りられなくなる。その時に膨大な借金があると対処不能になり、一挙に破綻に追い込まれる。

それは誰が考えても分かることである。ところがそれに対する異論が出てくる。財政の赤字を削減するためには大増税が避けられない。景気は急落する。それが嫌なためである。

目先の景気を維持しようとすれば、財政の赤字をそのままにしておきたいと考えるであろう。しかし将来を重視する立場に立てば、大至急で赤字の縮小を図らなければならない。

激しいせめぎあいが各国で続いている。そして、もはや財政赤字の問題は放置できないことが分かってきた。このことは世界の大勢に甚大な影響を及ぼす。景気を大きく押し下げるからである。その動きはいずれ現れる。それが始まったように思われる。

 

---セイコーエプソンWeb 税務会計情報ネットTabisLand への寄稿(2011.7.1)から---

 

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