東京福祉大学 大学院教授

                                                      経済学博士 

  悲惨であった65年前の日本

            ―――奇跡の経済発展を遂げた謎?―――201081

  我々は10年か20年を振り返り、成長から見放され、低迷する景気に気を滅入らせている。しかし時には65年前を思い出すことが必要である。

  我が日本はアメリカをはじめ世界の強国を相手に壮烈な戦争を遂行して敗れたのである。多くの国民が国のために戦って死んでいった。アメリカ空軍の爆撃によって、ほとんどの都市は壊滅していた。工場は爆弾によって木っ端微塵になり、違法な無差別爆撃によって何十万人もの人々が焼け死んでいる。原子爆弾の被害だけではない。

  住む家はなくなり、着る物もなく、戦災孤児が駅で筵にくるまって寝ていた。

  戦争のためにあらゆる資源を使い尽くしていた。石油はもちろんのこと鉄もアルミもなく、機械も道具も残っていなかった。生産活動ができなかった。

  食べるものがなく、まともに米の飯が食べられなかった。食べるために毎日が必死であった。将来のことを考える余裕がなく、国民は目標をなくし、誰も将来に希望を持てなかった。皆が惨めな思いをしていた。

  どん底からの再生であった。そして10年後には戦前の水準にまで復興を遂げた。その後も急激な成長を続けた。それは世界の歴史に永遠に残る奇跡の経済発展であった。

  国内総生産はほとんど零からの再出発であった。無からは何物も生み出されないと思われていた。残ったのは人間だけであった。我々が営々として一つ一つ小さな物から作り上げていったのである。

  そして世界第2の経済大国を作り上げた。一人当たりの国内総生産はヨーロッパの先進諸国を追い抜き、アメリカを追い越し、事実上、世界最高へと上っていった。

  そのような奇跡が達成された背景には多くの要因があった。戦後、米ソの厳しい対立があり、我々がアメリカの側にいた幸運を忘れてはならない。

  しかし根本的な要因は日本人の資質にあったと考えられる。勤勉で貯蓄心に富み、将来のために、社会のために尽力し、自己犠牲をいとわない国民が発展の基本であった。

  この資質がある限り、どのような事態になっても、再生を図ることができるであろう。

  どれほど落ち込んでも65年前の事態に戻ることはない。たとえそのような事態になっても、再生を目指すことができる。それだけの自信を我々自身がもつべきである。

―――セイコーエプソンWeb 税務会計情報ネットTabisLandへの寄稿(2010.8.1)から―――

 

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