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「最高指導者の条件」

  李登輝著 PHP研究所

 

東京福祉大学 大学院教授

 経済学博士 

 

  人間の集団には最終的に判断を下す責任者が必要である。会社であれば社長であり、国では総理大臣や大統領である。

  それらの最高権力者に求められるのは、難しい判断である。その結果は将来の全体の運命を左右することになる。

  難しいのは、どのように決めてもプラスの面だけではなく、マイナスの面があるためである。しかも時として、大きなマイナスを覚悟しなければならない。何かを犠牲にしなければならない。

  孤独の中で困難な判断を迫られるため、最終責任者としては拠り所が必要になる。それが信仰であり、あるいは確固たる哲学であると著者は力説する。

  最高権力者になるためには、権謀術数のかぎりを尽くす必要があると思われている。ところが、そのようにして手に入れた地位を保つためには、それ相応の配慮が各所へ必要になる。

  そうなると本来あるべき筋道とは違ってくることが考えられる。情実によって判断が歪み、間違った方向へ進む可能性が出てくるからである。

  本来は長期的な観点で全体にとって必要な決断を下さなければならない。

  そのため最高指導者にとって最も重要なのは誠実さである。そのような人がだんだんと地位を高め、最高責任者になることが理想である。

ところが、どのような社会においても、利害を超越して誠実さを貫くことは難しい。それができるのは当人が並外れた人格者であるとともに、その人が長年にわたり周囲から推されなければならない。

そのような指導者を国民が選択しなければならない。すなわち国民の高い資質が求められるのである。

そのような人物を長年にわたり社会が育てなければならない。それが教育である。

著者が最高指導者として職責を全うすることができたのは、戦前の日本の教育のおかげであると力を込めて語る。そこで学んだのが人間としてのあり方、哲学であった。

  本書に共鳴できるのは、内容が納得できるためである。それは極めて常識的な結論であると考えられるからである。

  それが改めて重要であると認識させられるのは、現実があるべき方向とあまりにも違ってきているためであろう。

現在、我が国では「愛国心」や「忠義の心」の大切さが忘れられている。愛国心や忠義は逆に悪いことであるという教育が戦後に行われたためである。

  著者は日本の現状について厳しい反省を我々に迫っている。日本の優れたものを我々が放棄しているからである。

武士道をはじめとして我が日本が世界に誇ることができる考え方を我々は再認識しなければならない。

戦後、我々がなおざりにしてきた我が国の優れた考え方を取り戻し、世界に広げていくことで、世界に貢献することができると痛感させられる。

 

生産性新聞P5「私の一冊」への寄稿(2008.4.15火)

 

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