銀行は地域密着へ立ち返れ

                                中京大学 大学院教授  水谷研治

自分中心の銀行行動 いつの間にか銀行の行動が変わってしまった。あからさまに自分の利益を確保することに重点が置かれ、顧客の都合を聞こうとしなくなった。顧客の経営が悪化すると、融資をした分が不良債権となる可能性が出てくる。そこで素早く融資を引き上げて危険を避けようとする。いわゆる貸しはがしが行われた。それは不条理な場合が少なくない。分かっていても、銀行が自分を守るために不良債権比率を低く抑えようとすれば、そのような動きになるのは避けられなかった。そのような行動が銀行を監督する官庁にも強要された。銀行経営を健全にして金融秩序を保つ責任を持つ役所としては、傘下の銀行の不良債権が増えることは困るからである。

経営危機を乗り切る資金の供給こそ 本来はそのような場合、必要な資金を提供するのが銀行の役割のはずである。企業の経営がいつも順調に推移するとはかぎらない。大きな経済変動をはじめ突発的な事件に会うなどで経営が危機に陥ることがある。そこで必要なのが救済資金である。資金さえ手に入れば、絶対に倒産することは無い。そして、その間に経営を立て直すのである。そのための資金を供給するのが銀行の重要な役割である。ところが銀行としては軽率に応じるわけにはいかない。企業が破綻すると融資が文字通り不良債権になってしまうからである。その企業の再建が可能であるとの見極めが必要であり、企業と経営者を冷静に見るだけではなく、周囲の環境にも配慮しなければならない。

地域との密着は不可欠 その場合、単に目先の経営計数だけで判断することはできない。企業の計数は将来大きく変動するからである。それを左右するのは経営者であり、従業員であり、仕入先であり、販売先である。それらが過去においてどのような経緯をたどっていたかは重要な判断材料である。企業を取り巻く人々が企業を危機から救うことができるからである。その意味で企業の本当の底力を見抜くことが必要である。それには銀行が地域の中で企業がどのような経営を続けてきたかを普段から知っておかなければならない。したがって、銀行は地域社会と密着していなくては本来の役割を果たすことができない。暖かい心で地域社会と密着することが銀行に求められている。            (みずたに・けんじ)

―――時局心話会、時局コメンタリーへの寄稿(2005.10.12)から―――

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