大増税で財政再建を――景気の急落は当然の覚悟――

     中京大学  大学院教授       経済学博士 

  無理な改革と言われるが

 小泉内閣の改革が難航している。

 目玉と言われる郵政改革についても無理をして民営化を図る必要はないとの意見がある。 国家財政と地方財政との綱引きとなっている三位一体の改革は強引に過ぎると反対論が強い。定率減税の廃止は景気がもう少し良くなってからにしようと先送りの意見が出ている。

  年金制度を根本から見直す必要があることは分かっているものの、誰も本気になって考えようとしない。それが国民の一人一人にとって負担が増え、貰える金額が減ることが明らかなためである。

  すでに実行されたものを見ても、国立大学の法人化など当初の意気込みとは違って形だけになっているものが多い。

  破綻している国家財政

  改革に無理があり、実態が伴はないのでは意味がないとの意見はもっともである。しかし、無理な改革を急がなければならない理由がある。

  国家財政が破綻しているからである。

  国家公務員に対する賃金が支払えなくなっている。国家が実施して来た事業を止めるか、あるいは民間に移管せざるを得ないのである。

  すでに膨大となっている国家の借金残高は毎年の赤字分だけさらに増えていく。将来の国民が返済しなければならない金額は気が遠くなるほど大きくなる。

  膨大な財政赤字を大至急なくさなければならない。そのためには聖域を設けずに支出を徹底して抑制する必要がある。地方交付税の見直しは当然である。社会保障費の削減も例外にはできない。

  増税も避けられない。とりあえず定率減税の廃止が行われるであろう。しかし、その程度では不充分であり、さらなる大増税が必要である。

  避けられない借金の返済

  赤字をなくすだけではなく、我々が作ってきた膨大な国の借金を返済する必要があるからである。

  借金が残っているかぎり、金利を支払わなければならない。現在のような異常に低い金利が正常化して上昇すると、とたんに国家財政は借金地獄へ陥る。

  金利水準が上昇すると、金利の支払が急増し、その支払のために借金を増やさざるを得なくなり、それが支払金利を上乗せするからである。こうなると借金が自動的に増加して、国家財政は破綻する。 このように金利が上昇する前に借金を減らしておかなければならない。

  二〇〇四年度の予算を見ると、税収と税外収入で四六兆円の歳入があるものの、地方交付税として一六兆円を地方へ渡さなければならないため、国の可処分年収は二九兆円に過ぎない。これに対して支出面では国債の支払金利が九兆円、一般歳出は四八兆円となっており、赤字は二七兆円である。この金額だけ国の借金が増加する。年度末の借金残高は建設国債と赤字国債だけで四八三兆円となる。

  これが、どれほど酷い状況であるかを我々は知らなければならない。一般の企業では借金の限界は年間売上の半分までと筆者は考えている。国の場合、どれほど大目に見ても年間売上に当たる年収二九兆円が借金の限界である。四五〇兆円以上の借金を返済しなければならない。それを金利が正常化するまでに、すなわち今のデフレが終るまでに、デフレの間に実行する必要がある。

  消費税の大増税

  建設国債を四〇年間、赤字国債を五年間で償還するとして筆者が試算すると、支出を大幅に削減したうえで、消費税を四四パーセントにする必要がある。

  五年前に実行していれば三〇パーセントでよかった。一〇年前であれば一五パーセントで済んでいた。

  今後さらに五年間先送りをすると、必要な消費税は五五パーセントになる。一〇年後になれば、六五パーセントは下らないであろう。

  大増税によって国民の生活水準は大きく低下する。人々が買わなくなるために売れなくなって景気は急落する。それを恐れて我々は改革を先送りしてきた。その結果が今日の国家財政の破綻につながったのである。 将来の国民の負担を考えれば、借金を作った我々が犠牲を払って大改革を実行する以外に方法はない。

  大増税が始まる。いや即刻始めなければならない。

その影響は一人一人の国民に厳しく襲いかかる。経済水準は大きく下落し、失業率が上昇し、社会不安が高まる。それらを覚悟して、一人一人がそれに備えなければならない。

  五年から一〇年間にわたり苦難が続くであろう。しかし、それによって国の借金を削減した後は日本経済の再発展を期待することができる。

戦後、零から出発して今日のような世界一の繁栄を築いた我々である。目標を定め、本気になって取り掛かれば、改革ができないはずはない。力強い将来の再発展のために、我々は大増税を含む財政の大改革を推進する必要がある。

―――Voice1月号P91-93  2005年どうする日本「大増税の年がやってくる」への寄稿から―――

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