2002.10.29

マイナス成長を容認せよ―――20021029―――水谷研治

             中京大学 教授

                   経済学博士 

右肩下がりへの転換

  日本銀行は主要金融機関の株式を買い取ることにした。本来はやってはならないこと、すなわち禁じ手を使うわけである。

  禁じ手を使わざるをえないことがある。国家が破綻する恐れがある場合である。現在がそのような事態であるとの認識であろう。本当にそうであろうか。

  10年前と比較すると、最近の経済状況は異常に悪い。かつて国内総生産は景気が良くても悪くても増加を続けた。その動きをたどってみると、右肩上がりでしかも年を経るごとに上昇度合いが強くなる時代が続いた。

  それが当然と考えると、今頃は相当高い水準に達していなくてはならない。それに比べると現在の水準は異常に低い。異常な事態から脱却して早くあるべき水準へ復帰させるために、あらゆる方策を使って景気を良くしようとする考え方が出てくる。

  ところが、現実の経済事情は根本的に違ってきている。経済は成長しなくなったからである。過去10年間の国内総生産の推移をたどってみると、成長率が鈍化しただけではない。1998年度以後はGDPが原則として減少し続けている。すなわち最近の国内総生産は景気が良い時にも増加せず、悪い場合には減少する姿に変わってきているのである。

  問題は今後の日本経済である。もし現在が異常に低いとすれば、異常事態がなくなれば、経済水準は自然に上昇するはずである。

 

大幅な水準低下の覚悟で改革を

  しかし、冷静に現実を直視すると、逆の動きが予想される。すなわち現在は異常に大きい財政赤字の力で異常に経済が押し上げられているのであり、そのような政策はもはや続けられなくなってきた。そのために経済水準が上がらなくなった。

  そして異常に大きな財政赤字を是正して正常化すると正常な水準へ経済が大きく低下するはずである。そのうえ、膨大な財政赤字を続けた結果として生じた国の大きな借金を返済するためには、財政支出を大幅に削減し、大増税を実施する以外にない。その結果、経済水準は大幅に下落することになる。

  すなわち、国内総生産は傾向的に下げ続けるはずである。そして、正常化のために財政の構造改革を断行すれば、さらに大きく経済水準が下がっていく。

  これが今後に予想される日本経済である。10年後、20年後に今日を振りかえるとすれば、2002年頃は経済水準も異常に高く、国民生活も考えられないほど豊かであったということになるであろう。それは現在、我々が10年前を回顧して、1990年頃は良かったと思うと同じである。

  今、我々に求められていることは、現実を見つめ、経済水準が大きく低下していく事態を前提とし、当然のこととして受け止めることである。この大きな流れに抵抗しようとして足掻くことは、効果が少ないだけではなく、将来に大きな禍根を残すことになるからである。

  そして、極めて豊かな今こそ、景気の大幅な下落を覚悟して財政の大改革を断行するべきである。

(月刊ビジネスデータ200211月号への投稿から)

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