2002.10.1

目先の景気よりも将来の負担の軽減を

                        ―――20021001――――水

  景気が良くなれば皆が幸せになれる。反対に景気が悪くなると多くの人々が不幸になる。そこで景気を良くしたいと誰もが願っている。

  幸せを願うとすれば、それだけの努力が必要である。ところが自分で努力しなくても幸せが手に入るとすれば、誰もがそれを望むであろう。

  政府が経済政策で景気を引き上げてくれれば、国民にとってこれほど好ましいことはない。そこで、いつも国民は政府に対して景気振興を要求することになる。減税と公共投資は代表的な景気引上げ策である。

  個人や企業では、一方的に支出を増加させることはしない。どこかで節約して収支を合わせるからである。政府の財政政策が景気を良くすることができるのは、政府がそのように収支の償いを考えないからである。すなわち赤字になるから景気を刺激する効果があるのである。

  通常は、良い点があると、同時に悪い点もついて回る。景気を良くするために財政が赤字になると、それだけ資金が不足する。それを借金でまかなう必要がある。その借金を将来の国民が返済しなければならない。

  目先の楽しみのために、我々は長年にわたって財政赤字を続けてきた。赤字分だけ借金残高が積み重なっていく。その結果、長期の借金残高は六百兆円を超え、実際に使える収入三四兆円の一七倍にも達している。企業にたとえれば、年間売上の一七倍もの借金になるわけである。

  この借金が残っているかぎり、将来の国民は永遠に金利を支払わなければならない。国債の金利が六パーセントになれば、年間の全収入を金利支払に当てても足らなくなる。

  これだけの借金を作って目先の景気振興を続けてきたのが我々である。将来の国民の立場に立って考えれば、あまりにも酷いと言わざるを得ない。少子高齢化が進むことは分かっているはずである。それだけに今後の国民の負担は自然に増えていく。その上に過去の借金の金利支払と返済圧力がのしかかってくる。

  将来の国民生活は暗澹たるものとなるであろう。借金の重みに打ちひしがれて、意欲が萎え、活力を失って、日本経済は永遠に衰退を続けることが予想される。

  それは将来の国民の罪ではない。もっぱら借金を作って返そうとしない我々の責任である。目先の景気だけを重視するのではなく、遠い将来の国民のことを考えて、早めに借金を返済していくべきである。

  それは容易なことではない。借金の返済に取りかかった時、はじめて我々は借金をすることが、すなわち赤字を出すことが、どれほど将来に大きな罪を作るかが分かる。

  我々は本気になって財政再建に取りかからなければならない。たとえ我々がどれほどの犠牲を払うことになっても、将来の国民の負担を軽くするために国の借金を減らしていくことが必要である。

―――「財界にっぽん」200210月号 地軸への寄稿から――――

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