2002.8.21
将来の厳しさを認識せよ---20020821---水谷研治      

           ---21世紀に伸びる会社の条件――

  景気は回復に向かっている。しかしながら回復力は弱く、いつになったら本格的に景気が良くなるか分からない。

  この困難な事態を何とかしのいで生き延びなければならない。誰もが一生懸命である。

  このような状況が続いているため、目先の対応に追われてしまう。もちろん、目前の課題を乗り越えなければ、将来がないことは言うまでもない。しかし、それだけでは将来の発展を望むことができない。

  将来の繁栄を願うとすれば、現在の状況だけではなく、将来の環境に沿った対応が必要である。重要なのは、将来をどのように想定するかである。

  現状が極めて悪いだけに、この事態を乗り越えれば、将来が明るく開けるように言われることがある。

  現在が異常に悪いとすれば、異常がなくなった後は、自然に浮上するはずである。それまでの辛抱であり、事態の好転を待っておれば良い。

  ところが、実際には状況は異常に悪いのではなく、逆に異常に良いと考えられる。そのため、異常な事態がなくなれば、自然に経済水準は下がっていく。

  過去一〇年間を見ても、景気は上下を繰り返しながら傾向として下降している。このようなことは以前には経験したことがない。

  長年にわたり景気は上昇を続け、経済は一貫して拡大していた。 それが当然とする感覚が我々の身についている。そのために、現状を異常に悪いと考えるのであろう。

  ところが現実の経済は異常な力によって大きく押し上げられているのである。

  第一に超大国アメリカが膨大な輸入をしているおかげで、我が国からの輸出が膨大な額となっており、経済が押し上げられている。第二に我が国の政府が経済政策によって経済水準を大きく引き上げている。

  その源になっているのは、いずれも赤字である。それが長年にわたって続いている。その結果、借金が膨大となり、限界をはるかに突破している。

  アメリカの貿易赤字は極端であり、それを長年にわたって続けたために、アメリカは資産を食い潰したうえ、膨大な対外純借金を抱え込んでしまった。このような国に対して、世界の人々がいつまでも資金を貸し続けることは考えられない。アメリカ経済の破綻は近いと思わざるをえない。

  より深刻なのが我が国の財政赤字である。景気振興のために膨大な赤字を二七年間にわたって続けているからである。その結果、我が国の借金は想像をはるかに超える巨額になってしまった。

  それにもかかわらず、当分の間は、それが致命的なインフレーションにつながらない。そのために、このような平穏な経済情勢がしばらくは続くであろう。しかし一〇年も二〇年も続けられることではない。

  いずれは事態が正常化することを考えておく必要がある。それがアメリカならびに我が国の政府の政策転換によって行われるか、あるいは、それができないために、インフレーションによって暴力的に実現するかは分からない。

  結果として、経済は現在よりも相当低い水準へ向かって縮小するであろう。

  このことは誰もが考えたくないことである。破滅的な状況になるからである。

  しかし二一世紀に生き延びて、発展を目指そうとするならば、この将来の厳しい経営環境にどのように対応するかを真剣に考えなければならない。

  将来の厳しさと比較すると、現在がどれほど恵まれているかが分かるはずである。豊かで恵まれている間に、将来のための対策を立てて実行しなければならない。

  今しばらくの間の好機に将来の布石を打ち、体制を作っていかなければ、厳しくなる将来に生き延びることすらできないからである。

  そのために必要なことは、現状を素直に見つめ、現在がどれほど恵まれた状況にあるかを十分に認識しなければならない。

  それを経営者だけではなく、従業員の一人一人が本当に納得することが大前提である。そして一人一人がその気になって将来のために今やるべきことを探し出し、体質の改革に邁進することが必要である。

  それができる企業だけが二一世紀に発展を続けると考えられる。

日本経済団体連合会 社内広報情報源2002.8月号P33)への寄稿

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