日本金融学会中部部会                       06.3.2514.-19.中京大学

研究報告  第3報告16.30-17.30 

銀行の役割と地域銀行の必要性

                   中京大学 

報告要旨

  メガバンクの成立と地域からの遊離

  都市銀行が相次いで合併し、巨大な銀行グループができあがった。合併の効果を発揮するためには合併銀行の中の融合が必要である。そのためには従来それぞれの銀行が持っていた特殊性を捨てなければならない。特殊性がしがらみと見られる場合もある。現実に地域の特性が失われつつある。

銀行業の対象は基本的にそれぞれの地域に根付く企業や個人である。地域ごとに特殊性があり、それに合わせた対応が必要である。画一的な基準を取引に当てはめることは現実的ではない。

  企業の帰趨を決める資金の供給

  企業経営が平穏に推移するとはかぎらない。業績が良い時でも企業買収の危険が迫ってくることがある。平時から準備をしているはずであるが、それを超える事態が起きた場合、対応するには大量の資金が必要になる。銀行が頼りにされる時である。

景気が極端に悪化した場合の企業経営は悲惨である。倒産の危機に遭遇する。倒産すると、それまでに培ってきた資産が消えてしまう。長年にわたって育成してきた人材が四散し、それに伴って貴重な技術がなくなる。危機を乗り切り、経営を立て直して長期的な発展を目指す必要がある。業績が極端に悪化した段階で、生き残りのための救済資金が必要になる。

そのような資金を供給することは銀行にとっても難しい。安易に融資をすると、自らの損失になるだけではなく、経済社会により大きな禍根を残すことになる。必要性と安全性の見極めが必要である。

  東海三菱銀行の設立

  銀行としては企業の現状を把握するだけではなく、将来を的確に予想しなければならない。その場合に重要なのが企業と地域との関連である。企業経営が地域の情勢によって影響を受けるとともに、企業の状況変化が地域全体へ及ぼす影響を考慮して対処しなければならないからである。

  その意味で経済圏に見合った地域銀行が求められている。それをメガグループの中で独立した銀行として設立することが現実的である。いわゆる名古屋経済圏である東海四県を地盤とする場合には「東海三菱銀行」の設立が好ましい。すでに「埼玉りそな銀行」に例がある。このようにして地域銀行はメガグループの機能を多面的に利用しながら経済社会の安定的な発展に貢献することが好ましいと考えられる。

日本金融学会中部部会  研究報告  第3報告16.30-17.30     06.3.2514.-19.中京大学

銀行の役割と地域銀行の必要性

中京大学 

  メガバンクの成立と地域からの遊離

  我が国の都市銀行は合併に次ぐ合併でいわゆるメガバンクへと統合された。三菱東京UFJグループ、みずほグループ、三井住友グループ、りそなグループである。グループの中にどこまで取り入れているかは、それぞれに異なっている。またグループの中にあっても、業務の括り方は違っている。

  合併を成功させるためには、それぞれが利害を捨てて協力しなければならない。ところが、それは言うべくして簡単にはいかない。企業には文化があるからである。長年にわたり練り上げてきた文化である。それぞれが最高のものを目指しているだけに、そこで育った人々にとって簡単に乗り換えるわけにはいかない。

それが社風である。原則に沿って細部にまで考え方が行き届いているために、部分的に変更することは難しい。文化の融合には長い年月が掛かる。その間は長年にわたり衝突の毎日になることは避けられない。

  それでも統一に向かって不断の努力が必要であることは言うまでもない。違いに目を瞑り、共通の理念に向かって進まなければならない。それぞれが特殊性を捨てて統一を目指すわけである。

特殊性の中には優れたものがある。しかし、それが本当に優れた個性であるか、あるいは本当は劣ったものかを判定することは容易ではない。それだけに、とりあえずは個性を捨て同一化に向かって進む以外にない。

  このことが地域の特殊性を捨象することにつながる。それは合併に伴ってやむをえないことである。ところが、このことが地域性を軽視することになることは避けられない。地域に個性がない場合には問題にならない。ところが地域の特性を取り込めないと銀行業としては表面的な取引に終わってしまう可能性がある。

 

  銀行の基本的な機能は資金の決済と供給

  銀行の業務は多くの種類にわたっている。大規模な企業の買収や防衛に携わる投資銀行業務は目立った動きである。零細な個人に対しても、投資信託や生命保険の販売などを行っている。それでも銀行業の基本となるのは資金を預かる預金とそれを元にした融資であることは変わらない。

大量の資金を数多く扱うところから、どのような間違いがあっても困る。資金の移動に関連する為替を含めて資金の出入りを間違いなく実行することは銀行業の基本である。顧客の要請に応じて間違いなく資金の出し入れをすることこそ社会において銀行業が担っているもっとも重要な役割である。どれほどの大金を委託しても銀行が間違いなく処理してくれるとの信頼感がなければ効率的な経済社会は成り立たない。それだけの信頼感に値するだけの体力が銀行経営に要求されているのである。

  銀行は大量の預金を保有するだけに大金を融資する力を持っている。資金の供給は銀行が社会で果たすもう一つの大きな役割である。融資する相手は企業と個人だけではない。国や都道府県から市町村までの地方公共団体はもちろんのこと、外国の企業や国家も対象になる。

  銀行からの融資はいろいろな使われ方をする。中でも一般的なのは、いわゆる前向きの資金としての利用である。たとえば新規に事業を起こす場合の資金である。事業を拡大するための資金もある。増加運転資金がその典型であり、原材料や商品の仕入れを増やすために使われる。設備資金として工場建設や機械の購入などに利用される場合も多い。個人の場合には商品の購入資金あるいは旅行費用などの消費者金融として融資を受けることがあるが、それよりも住宅建設資金が圧倒的に大きな比重を占めている。

  このような資金が取引に直接役立つところから、有用であることは明白である。銀行としても融資がしやすく、優良な顧客を銀行同士で取り合いとなる。

 

  企業の帰趨を決める資金の供給

  企業経営が平穏に推移するとはかぎらない。非常の事態に備えて常日頃から準備をしているはずである。それにもかかわらず、準備を超えた状況になることがある。それは業況が悪化した場合だけではない。

好調を続けている時、突如として株式の買い占めに会うことがその一例である。株式を購入する者の意図はまちまちである。放置しておいても構わない。しかし買い占めが進むと企業の経営に介入してくることが考えられる。経営者が独善的で好ましくないこともあるため、それが悪いとは一概に言えない。

しかし、それによって短期的な株主の利益を重視する方針が打ち出されると、企業としては困ることが多い。企業経営では長期的な視点で将来にわたり発展を目指すことが重要である。それでこそ企業の中で技術の蓄積ができ、関係者が長期的な視点で努力を重ねることができるためである。

このことは我が国の産業にとっても重要である。短期的な利益を重視すると、長期的な発展を犠牲にすることになり、産業の衰退を招くからである。その結果として我が国の経済が弱体化する。

このことは経済を担っているのは企業であり、企業が長期的に発展しなければ、全体の経済の発展もないことを示している。この場合、同じ企業が連続する必要はない。しかし長期的な観点がなければ、企業の中で地道な技術の発展を望むことは難しい。特に製造業においては、多方面の部品一つ一つの精度が上がらなければ製品の精度を上げることができない。それには長期間の地道な努力の積み重ねが必要であり、それが経済社会で確保されることが必要である。

そのためには多くの企業が安定的に経営を続けることが重要である。その安定化機能を金融面で担うのが銀行である。企業の緊急事態において、銀行は大量の資金を必要に応じて供給しなければならない。銀行として、それが本当に必要であるか否かを判断することは至難な業である。

そのためには顧客である企業のことを日常から十分に理解していなければならない。技術水準など企業が持つ特性は当然である。経営者はもちろんのこと従業員の資質や考え方から取引先の関係も重要であり、企業の置かれた社会全体への影響も考慮に入れる必要がある。

 

  後ろ向き資金の供給が重要

  さらに重要なのは、いわゆる後ろ向き資金の供給である。

  企業はどれほど用心をしていても苦境に落ち込むことがある。地震や台風などの自然災害に会はないとはかぎらない。大口取引先が倒産して煽りを受けることがある。景気が予想を超えて大きく下落すると、どのような企業も立ち行かなくなる。

  企業の業績が悪化して赤字になり、赤字が増加する。しかし赤字がどれほど大きくても、また赤字がどれほど続いても、それで企業が倒産するわけではない。支払資金が途絶えなければ倒産にはならない。

倒産してしまえば、それまでに培った技術も人脈も取引先も消えてなくなってしまう。再起を図るためには倒産させてはならない。そのためには資金が必要である。それを企業が銀行に求めることになる。それが後ろ向きの資金である。

赤字資金はその代表である。業績が悪化した時にかぎり、悪い噂を立てられて困るものである。取引先が納入代金の回収ができないのではないかと警戒するために、従来どおり掛けで、あるいは手形で原材料や商品の購入ができなくなる場合が出てくる。あるいは代金の取り立てが急に厳しくなることもある。噂が噂を呼び、一気に事態が悪化する。そして破綻へ追い込まれる。

そのような事態を打開するためには、資金を大量に準備して、現金で即時に支払い、資金的に余裕のあるところを見せることが一番である。大至急で大量の資金を確保しなければならない。

業績が悪化している時であるだけに頭を痛める事態である。取引銀行としても原則として応じることは難しい。倒産の危機が迫っているからである。倒産する企業へ融資すれば、融資した分が貸し倒れとなり銀行としては損失になる。しかし融資をしなければ、資金不足から倒産する可能性がある。その結果として従来融資をしている分も貸し倒れとなる恐れがある。追い貸しをして企業を支えるか、あるいはここで企業を見切るかの決断を迫られる。

最後は総合判断である。そこで重要になるのは、その企業の過去における歴史である。その企業の地域における役割も考慮に入れなければならない。それらが企業の将来性に大きな影響を及ぼすためである。

 

  地域性重視の実現方法

  銀行が社会の中で本当に役立つためには顧客の把握が必要であり、それには長い歴史と地域における広がりの双方の知識が不可欠である。ここで銀行として地域性が重要になってくる。

  それぞれの経済圏の中で地域性を重視するのである。経済圏の最小単位は支店である。それを統合して地域単位で見ることも必要である。小さな区域内できめ細かく営業活動する金融機関の存在意義がここにある。

  都市を中心とした単位の経済圏で活動する場合も多い。県単位で営業する場合も少なくない。大きな経済圏の場合には県をまたがることもまれにはある。

  それぞれが本拠を置き責任者を常駐させて地域に密着していなければ、地域の要望に対して的確にしかも迅速に対応することは難しい。それができなければ銀行として本当の意味で地域のために役立つとはいえない。それでは順次、地域の顧客から見離されていくことになろう。

  このような地域銀行がなくても平時においては困ることは少ないであろう。特に金融情勢が極端に緩和している今日のような事態が続くかぎり、必要な資金はどこからでも提供されるはずである。特に優良企業にとっては銀行の必要性を感じないはずである。

  ところが、これほど極端な金融情勢が永遠に続くと考えることはできない。将来、通常の状況になった場合には頼りになる銀行が必要になる。金融機構は経済社会における安定化のために重要であり、それを念頭において、あらかじめ作っておくべきである。

経済圏に見合った銀行がなければ、地域としての問題に対して相談を掛けることができないという現実がある。強大な名古屋経済圏である。東海四県を中心とした地元銀行の設立が必要である。

  グループの中の地域銀行として独立した埼玉りそな銀行は一つの賢明なあり方である。同様にして東海三菱銀行を設立することが理想的である。銀行業として機械化の費用は莫大となっており、もはや個別銀行だけで対応できる規模を超えてきた。個々の銀行がすべての機能を備えることも難しい。証券や信託を含めて、多面的な機能をグループとして相互に利用しながら、本来の銀行業務についてはあくまで地域密着で顧客に奉仕する銀行になっていくことが必要と考えられる。

 

参考

Mega Bank と地域銀行の重要性」水谷研治著  中京ビジネスレビューVol.2  2006

「銀行は地域密着へ立ち返れ」水谷研治著  時局コメンタリー第7062005

『耐乏なくして再生なし――日本経済・復活のシナリオ』水谷研治著 東洋経済新報社2005

『世界最強  名古屋経済の衝撃』水谷研治著 講談社2004

『企業金融論の基礎』水谷研治著  東洋経済新報社1972

 

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